*[本]王国

王国 (河出文庫 な)

王国 (河出文庫 な)

「掏摸」の続編にあたる作品で、主人公は女スパイのようなことを
させられる娼婦である。


スリリングな展開だが、いまひとつ主人公のキャラクターが見えて
こなかった。こういう女優が演じたらいいだろうな、みたいな想像が
あまり働かないというか。


文庫本に作者本人の解説があるので、なるほどそういうことか、と
分かる。宗教の話は、この後の作品でも繰り返し語られていて、
まだ本人の中でこなれてない印象がある。
素材をカットして生のまま出しているみたいな感じ。



「掏摸」と「王国」で悪の権化みたいな役割で登場する木崎という
キャラクターがいる。
自分を神様と勘違いしているサイコ野郎だ。


この人は、国家的な陰謀を操っているらしい。
たぶん様々な案件を抱えて、ほとんどは部下にやらせているだろう
けど、プランは自分で練っているに違いない。
将棋の盤面をいくつも抱えている感じだろうか。


それにしては、ちょっと暇すぎやしませんか、木崎さん。
自分の思う通り人を追い込むのが趣味だというが、そうするため
にはかなり周到な準備が必要だ。
おいしいところにだけ登場しているけれど、待ち時間もけっこう
あるのではなかろうか。


たとえば、「王国」の終盤に、主人公がパスポートを受け取りに
地下駐車場に停めてあるクルマに行く場面がある。
ダッシュボードにパスポートを見つけてほっとしたのもつかの間、
後部座席には木崎が座っているのである。


お前の行動などお見通しだ、と言わんばかりだが、木崎さんは
いったいいつから後部座席でスタンバイしていたのだろう? 
そんなに暇なはずもないと思うのだが。



あと気になったのは、テレビのニュースで官僚が自殺したり
要人が交通事故に遭ったりするのを見て、陰謀を思わせる描写
である。


本当に陰謀を進める組織なら、いっぺんにやらないだろうし、
そもそも報道させないようにするだろう。
読者にそう感じさせるために敢えて書いているとは思うのだが、
凄腕のジャーナリストが取材してようやく気がつく、ぐらいの
工作をしていてもよさそうだ。


つまり、邪悪なものを創造するのも難しいね、という話である。