- 作者:中村 文則
- 発売日: 2015/04/06
- メディア: 文庫
させられる娼婦である。
スリリングな展開だが、いまひとつ主人公のキャラクターが見えて
こなかった。こういう女優が演じたらいいだろうな、みたいな想像が
あまり働かないというか。
文庫本に作者本人の解説があるので、なるほどそういうことか、と
分かる。宗教の話は、この後の作品でも繰り返し語られていて、
まだ本人の中でこなれてない印象がある。
素材をカットして生のまま出しているみたいな感じ。
↓
「掏摸」と「王国」で悪の権化みたいな役割で登場する木崎という
キャラクターがいる。
自分を神様と勘違いしているサイコ野郎だ。
この人は、国家的な陰謀を操っているらしい。
たぶん様々な案件を抱えて、ほとんどは部下にやらせているだろう
けど、プランは自分で練っているに違いない。
将棋の盤面をいくつも抱えている感じだろうか。
それにしては、ちょっと暇すぎやしませんか、木崎さん。
自分の思う通り人を追い込むのが趣味だというが、そうするため
にはかなり周到な準備が必要だ。
おいしいところにだけ登場しているけれど、待ち時間もけっこう
あるのではなかろうか。
たとえば、「王国」の終盤に、主人公がパスポートを受け取りに
地下駐車場に停めてあるクルマに行く場面がある。
ダッシュボードにパスポートを見つけてほっとしたのもつかの間、
後部座席には木崎が座っているのである。
お前の行動などお見通しだ、と言わんばかりだが、木崎さんは
いったいいつから後部座席でスタンバイしていたのだろう?
そんなに暇なはずもないと思うのだが。
↓
あと気になったのは、テレビのニュースで官僚が自殺したり
要人が交通事故に遭ったりするのを見て、陰謀を思わせる描写
である。
本当に陰謀を進める組織なら、いっぺんにやらないだろうし、
そもそも報道させないようにするだろう。
読者にそう感じさせるために敢えて書いているとは思うのだが、
凄腕のジャーナリストが取材してようやく気がつく、ぐらいの
工作をしていてもよさそうだ。
つまり、邪悪なものを創造するのも難しいね、という話である。