- 作者: 橋本治
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2016/06/07
- メディア: 新書
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前にどうしても出しておきたかったのだろう。
近代国民国家とは、王様とか皇帝などの支配者を追い出して作った
ものである、とすると、日本は実はそういうことをしていない。
だから、普通の人は「政治って、どっかの誰かがやってるものだ」と
思っていて、権力のチェックをしないでいる。
すると、世の中を自分の思い通りにしようとする人が、民主主義の
手続きを経て選ばれてしまう。
すごいことに、民主主義の政治というのは、その政治を支える国民の頭のレベルを、
まともでかなり高いものと想定して、これを前提にしています。どういうことかを
分かりやすく言うと、民主主義の社会に「バカな国民」は一人もいない(ということに
なっている)のです。
(p152)
もちろん現実にはバカの方が多いので、バカを利用して権力を握る政治家が
たくさん出てくる。
そうならないためにも、私たちは考えなければならない。
本書は高校生が読むことを想定して、国家を部活に例えて説明している。
もちろん、高校生以上の人が読んでも分かりやすい。
国家主義を煽る人々にだまされないためにも、広く読まれるべきであろう。
↓
オタク的に、そういえば、と思ったのは次の部分である。
今でもファンタジーの世界で、舞台になるのは「王国」です。魔物に襲われて
危機に瀕した王国で、お姫様を助けて王国の危機を救います。王様の出番が最後で、
「そりゃよかった」と笑うだけでなにもしなくても、そのファンタジーの舞台となる
王国は、「王様のもの」です。なんでそんな設定ばかりなのかと言えば、「この国は
王様のもの」と考えてしまうことが、一番しっくりとして馴染んでしまうことだから
です。「王様が追放されて、もう王国ではなくなっていて、当然のことながら荒廃
してしまった国を、王様に代わって“最高議会のメンバー”が統治している」という
ことになったら、その「最高議会のメンバー」は邪悪なもの揃いになってしまうでしょう。
「君主制から民主制へ」という、近代以降には当たり前の流れが、ファンタジーの世界
では「邪悪なものに平和な王国が乱される」になってしまいます−−その方が、ファン
タジーの受け手には、受け入れやすいのです。
なぜかといえば、繰り返しになりますが、人間の作った国家の歴史の中で「民主主義
になった時代」は、最近のほんの短い期間で、人間の思考パターンには「長すぎる君主制
の時代」の方が、当たり前に感じられるようになってしまうからです。
(p167-168)
ラノベから深夜アニメになった作品の設定を見ると、主人公がいる国は議会制民主主義
でも、ヒロインの母国が王政だったりすることが多い。
ここ10年のファンタジー系ラノベのヒット作で、どんな政治体制が設定されているかを
調べたら面白いかもしれない。
誰かやってくれないだろうか。