国家を考えてみよう

nation と state の違いを丁寧に説明した一冊で、おそらく参院選
前にどうしても出しておきたかったのだろう。


近代国民国家とは、王様とか皇帝などの支配者を追い出して作った
ものである、とすると、日本は実はそういうことをしていない。


だから、普通の人は「政治って、どっかの誰かがやってるものだ」と
思っていて、権力のチェックをしないでいる。


すると、世の中を自分の思い通りにしようとする人が、民主主義の
手続きを経て選ばれてしまう。

 すごいことに、民主主義の政治というのは、その政治を支える国民の頭のレベルを、
まともでかなり高いものと想定して、これを前提にしています。どういうことかを
分かりやすく言うと、民主主義の社会に「バカな国民」は一人もいない(ということに
なっている)のです。
(p152)


もちろん現実にはバカの方が多いので、バカを利用して権力を握る政治家が
たくさん出てくる。
そうならないためにも、私たちは考えなければならない。


本書は高校生が読むことを想定して、国家を部活に例えて説明している。
もちろん、高校生以上の人が読んでも分かりやすい。
国家主義を煽る人々にだまされないためにも、広く読まれるべきであろう。



オタク的に、そういえば、と思ったのは次の部分である。

 今でもファンタジーの世界で、舞台になるのは「王国」です。魔物に襲われて
危機に瀕した王国で、お姫様を助けて王国の危機を救います。王様の出番が最後で、
「そりゃよかった」と笑うだけでなにもしなくても、そのファンタジーの舞台となる
王国は、「王様のもの」です。なんでそんな設定ばかりなのかと言えば、「この国は
王様のもの」と考えてしまうことが、一番しっくりとして馴染んでしまうことだから
です。「王様が追放されて、もう王国ではなくなっていて、当然のことながら荒廃
してしまった国を、王様に代わって“最高議会のメンバー”が統治している」という
ことになったら、その「最高議会のメンバー」は邪悪なもの揃いになってしまうでしょう。


君主制から民主制へ」という、近代以降には当たり前の流れが、ファンタジーの世界
では「邪悪なものに平和な王国が乱される」になってしまいます−−その方が、ファン
ジーの受け手には、受け入れやすいのです。


 なぜかといえば、繰り返しになりますが、人間の作った国家の歴史の中で「民主主義
になった時代」は、最近のほんの短い期間で、人間の思考パターンには「長すぎる君主制
の時代」の方が、当たり前に感じられるようになってしまうからです。
(p167-168)


ラノベから深夜アニメになった作品の設定を見ると、主人公がいる国は議会制民主主義
でも、ヒロインの母国が王政だったりすることが多い。


ここ10年のファンタジーラノベのヒット作で、どんな政治体制が設定されているかを
調べたら面白いかもしれない。
誰かやってくれないだろうか。