きみの声をとどけたい

割引の日だったのでクルマで郊外の映画館に行って見てきた。
観客は私を含めて二人。
「打ち上げ花火」よりはこちらの方が面白いのに、もったいない。


この映画は特に何の先入観もなく見ることができて、素直に楽しめた。
とにかく初々しいのである。
オーディションで選ばれた人たちが初めて声優をやるので、たぶんこの声は
もう二度と録れない。そこが切なくていいのだ。


この感じは、大林宣彦監督が撮った映画によく似ている。
「打ち上げ花火」とたびたび比較して申し訳ないのだが、あちらは人気の役者を
声優で起用していたので、人生で一瞬しか録れないものを記録した印象がない。
おそらく実写版ではそれがあったのだろう。


夏を感じられるうちに映画館でぜひ見ていただきたい。











ここからはひねくれたおっさんのダメ出しというか、おや?と思ったところを書く。
読むとネガティブな気分になるので、できれば無視してください。
単なる個人の感想です。


まず、カエルに導かれて廃業した喫茶店に入る、という導入が気になった。
なんでカエル? と不思議だったのだが、これはボツになったプロットに
ミカエルという天使が出てくるそうで、その名残なのだとか。
http://anime.eiga.com/news/105028/
それを読んでようやくなるほどと思ったけれど、主人公に不法侵入させる
なら、もう少し工夫が欲しかった。


それから、お母さんが意識不明になった紫音という女の子の影が薄い。
彼女と主人公たちのからみはもっと深く掘り下げるべきだったのでは、と
思う。
おそらく、夏休みが終わる前に喫茶店を解体することが言い出せない、という
話にもっていくためには、あまり主人公たちと打ち解けてはいけなかったの
だろうけど、なんだか喫茶店の放送室を乗っ取られたみたいな印象を受ける。


もうひとつ、みんなが録音した歌をレギュラー放送中に一度も流さなかったのも
不自然だ。
もちろん、お寺からみんなが唄って、それをクルマで搬送されるお母さんと
一緒にカーステレオで聴く、というのが盛り上がるし私も感動したのだが、
やはりこれも、最後のクライマックスのためにとっておいたのだな、と
分かってしまう。


つまり、脚本をもう少し練り直したら、この映画はもっと素晴らしくなった
のではないか、と思うのだ。


最後に、あと一個だけ。
映画のラストに主人公の未来の姿が出て来るけど、あれは他の女の子たちのも
欲しかったです。動かさなくてもいいから。
そこは観客の想像に委ねた方がいいでしょう、という意見も分かるのだけれども、
みんなが幸せになった絵も見たかったなぁ、と。