文系の壁

文系の壁 (PHP新書)

文系の壁 (PHP新書)

養老孟司の新書は「なんとかの壁」にしなければならんのだろうか。
本人が決めているわけではないのだろうけど、そろそろ止めたらどうか。
この本は、理系の人との普通の対談集である。


私が面白いと思ったのは、養老孟司ノーベル賞について述べたところだ。

養老
 そうですね。でも科学の中でいうと、ノーベル賞はマイナス面が大きいと思います。
アメリカでノーベル賞クラスのしごとをした日本人は少なくないですが、実際に受賞
するのは彼らのボスですからね。科学の社会にはそういうヒエラルキーがある。


 さらに大きな問題点は、受賞に政治的判断がはたらいてることです。最近、日本人に
多く授賞しているのは、たぶん、日本は科学技術にお金を出せる余力があるだろうから、
日本にやらせておけということじゃないかな。


須田
 ああー、なるほど。


養老
 しかも、去年の青色LEDが典型的ですが、授賞対象が応用研究にシフトしてきた。
ノーベル賞はもともと、アインシュタインみたいな基礎研究にしか賞を出さなかった
んです。青色LEDは、実用面を重視する京都賞のほうがふさわしい。


 僕は、京都賞のレベルが上がってきたから、ノーベル賞が方針転換をしたんだろうと
思ってます。島津製作所田中耕一さん以来、急に変わった。悪く言えば、京都賞潰し
ですよ。「科学に関する価値観を決めるのはわれわれだ。日本にはその権利を渡さない」
ということです。
(p179 - p180)

ノーベル賞ばかり持ち上げないで、京都賞をもっと盛り上げたほうがいいのかも。



私が理系の人を観察してみるに、彼らの多くは歴史が嫌いである。


文系は数学がとにかく苦手で、その延長上にある物理や化学も理解できない人が多い。
これは好き嫌いというより、分からないと言ったほうがいい。


が、理系の歴史嫌いは、分からないのではなく、無意味だと感じているのである。


つまり、こまごまとした政治とか文化の変遷には、物理の公式のようなものがなく、
いちいち個別に記憶しなければならない。
あらゆる変数を呑み込んでビシッと答が出る快感がないのである。たぶん。


文系からみれば、そのこまごましたところが面白いと思うのだが、人間の思惑や偶然に
よってできたものを恣意的にまとめる、ということに胡散臭さを感じるのだろう。



養老孟司が本書で、理系にもフィールド系と実験室系があって、フィールド系の方が
面白いのではないか、と言っている。


で、歴史が嫌いな人は、おそらく実験室系のサイエンスが好きなのだと思う。


すでに誰かが、複雑系からみた歴史、みたいなものを研究して本にしているような
気がするが、それが学校教育に反映されれば、歴史嫌いの理系も減るかもしれない。