ブラック・スワン

松山映画祭という催しがあって、そこで上映されていたので見てきた。
なかなか痛々しい映画だった。


内田樹によると、米国映画では母親を憎悪するのは禁忌だそうだが、
この作品もそのカテゴリーに入るのかもしれない。


ていうか、母親によって性的なものを抑圧された子供が青年期に発狂
するっていうパターンは、エド・ゲインに端を発する米国映画の鉄板
ストーリーである。


ブラック・スワン」の場合は、清純な白鳥と、王子を誘惑する黒鳥
の両方を演ずるバレリーナが、演出家に「君はエロさがない」とダメ
出しされて悩む、という話である。


実際、どうなのだろう? 
女はエロさを自在にコントロールできるのだろうか。
女性誌でときどきそういう特集をしているのを見るが、単に露出度を
上げたりする域を出ていないようだ。


俗に“男好きのする顔”という言い方があるが、無意識に男を誘って
いるような語感がある。
本人がコントロールしているつもりが、エロい雰囲気が漏れている、
というイメージか。


ここで「エロさ」というのを、男の恣意的な視線、という解釈にする
と、それは男の匙加減ひとつではないか、ということになる。
女の何をエロいと思うかは、男によって違うからである。


ただ、まあこれはだいたいの男がエロいと思うよなぁ、というぼんや
りとした幻想は、男たちによって共有されているわけで、その幻想の
範疇に入るかどうか、ということなのかもしれない。


個人的には、バレリーナの肉体にエロスを感じたことはない。
私はあんなに痩せた身体は嫌いである。主演のナタリー・ポートマン
も、かなりダイエットしたそうだ。
アカデミー主演女優賞がとれてよかった。


引退するバレリーナの役をウィノナ・ライダーが演じていて、彼女の
ファンだったので寂しい思いをした。


ところで、主人公のライバル役の子が背中にタトゥーを入れていた。
ニューヨークでは、実際にタトゥーをしたバレリーナが普通に踊って
いるのだろうか。
ちょっと不思議に感じた。


あと、徹底的に白人だけの映画だったけれど、黒人のバレリーナは存
在しないのか。絶対にいるはずなのだが。


いや、そういう細かいイチャモンはどうでもいいのだ。
割と怖い作品なので、気軽に見るとヒッと息を飲むですよ。