もう牛を食べても安心か

もう牛を食べても安心か (文春新書)

もう牛を食べても安心か (文春新書)

かつて狂牛病騒ぎがあった。
いまは普通に吉野家で牛丼が食べられるけれど、しばらくは豚丼
しのいでいた時期もあった。


今のところ、牛肉を食べたことが原因でヒトが狂牛病になって死亡
した例は、日本では報告されていない。
だからといって、ヒトに感染するリスクがなくなったわけではない。


科学的に疑問が呈された米国産牛肉が、政治的ゴリ押しによって輸入
再開され、私たちは一年も経つとそのことを忘れて平気で牛肉を食べ
ている。


この本を読んで思うことは、原発にしろ狂牛病にしろ、科学の上位に
政治がくることである。


政治的判断というものは、何らかのもめ事があるから発生するのであ
って、それが後世から見て妥当であればいいのだが、利権によって歪
められることも多い。


人間が人間を動かす以上、合理的な判断をするとは限らない。
なにしろ、利権の塊のような人ばかりが政治家になるのだ。


いや、政治家は選挙というチェック機能が一応はたらくが、官僚や
企業の経営者は一般の人のチェックは受けない(株主も彼らの一味)。
やりたい放題である。


本書では、狂牛病が発生し、国内で使用が禁止された肉骨粉を平然と
他国へ輸出する英国の例が記載されている。
何がグローバル化か。


ついイラ立ってこんな感想を書いてしまったが、私が感動したのは、
なぜタンパク質を食べ続けなければならないか、という話だった。


実験用にネズミに、カロリー的には十分な糖と脂質だけの餌を与える
と、10日もせずに衰弱して死ぬ。
なぜか? 分子レベルで生き物は常に外部と入れ替わっており、その
入れ替わる材料としてタンパク質が必要だからだ。


このことを証明したシェーンハイマーという学者について、本書で詳
しく書かれており、動的平衡という考え方は福岡伸一の本の通奏低音
になっている。


理系の高校生や文系の大学生が読むのにちょうどいいと思う。