エピジェネティクス

 エピジェネティクスとは「染色体における塩基配列をともなわない変化」、
もう少し専門的にいえば、「ヒストンの修飾とDNAメチル化による遺伝子
発現抑制」である。とっつきにくく感じられるかもしれないが、この定義の
意味が理解できると、かつてガリレイが望遠鏡をつかって月の表面や土星
環を詳細に観察したように、それまでぼんやりとしか見えなかった生命現象の
景色が、手に取るように鮮明に見えてくる。


文系の私には、正直ぼんやりとしか理解できなかったが、それは私の頭が
悪いからであって、この本を教科書にして講義を受ければ、たぶんもう少し
分かるようになるはずである。


ただ、メチル化とかアセチル化という言葉が何の説明もなく出てくるので、
ある程度の化学の知識は必要かもしれない。
もちろん、基礎的な生物学の知識も。



私が理解した範囲で言うと、膨大な情報が書き込まれている本(DNA)の
内容は一切いじられてないけれど、「この部分を読み取りなさい」とか
「ここは読んじゃダメ」という命令をする部分が変化して、様々な生命
現象が起こりうる、という仮説がエピジェネティクスである。


本書で例に出されているのは、第二次世界大戦中のオランダで、妊娠中の
女性が食料不足で胎児に十分な栄養が届かなかった場合、その胎児が大人に
なってから生活習慣病に罹る確率が高い、という事実である。


他にも植物の花の色とかネズミの記憶などの例が出されており、その部分は
面白く読めた。なぜそうなるか、という説明になると追いつけなくなるが。



ふと思い出したのは、福岡伸一の「生物と無生物のあいだ」である。
動的平衡という考え方があったが、これとエピジェネティクスはどう関係
しているのだろうか。


なぜ、ヒストンの修飾はずっと維持され続けているのか、というのが謎だ。
昨日と同じ私、というのは意識がそう思い込んでいるからだが、分子レベル
でもそういうことがあるのだろうか。



ところで、本書では「すべからく」を誤用しているように見える箇所が
いくつかあったのだが、岩波書店校閲がそんなものを見逃すはずがなく、
単なる私の勘違いだろう。