野茂が引退を発表した。
偉大なメジャーリーガーだったが、ここ数年間はほとんど報道されていなかった
と思う。
近鉄にすごい選手がいる、と当時大阪にいた友達に教えてもらったのは、たしか
1990年だったろうか。
私はほとんどプロ野球に興味がなかったが、野茂が現れてから近鉄を応援するよ
うになった。
近鉄は12球団の中で、唯一日本一になったことのないチームである。
野茂と阿波野とブライアントがいれば、日本一になるだろう、と思わせる時代が
あったが、その夢もかなわず、球団は消滅してしまった。
野茂が任意引退してメジャーに移ったとき、多くのメディアは野茂を非難した。
裏切り者と呼ぶ奴さえいた。
野茂はメジャーでは通用しないだろう、というのがもっぱらの予想だった。
ところが、ドジャースに入団して活躍すると、手のひらを返したように賞賛し始
めた。キャッチャーだったマイク・ピアザまでが人気者になって、BVDか何かの
CMに登場するほどだった。
ちょうどメジャーリーグは、年俸高騰のためサラリーキャップ制度を導入しよう
としており、それに対して選手はストライキを打っていた。
米国の国民的スポーツのイメージは堕ちかけていたが、野茂の大活躍によって、
息を吹き返した。私にはそのように見えた。
コロラド・ロッキーズ戦でノーヒッターになったとき、あの無表情な野茂がはに
かんだように笑ったのが印象的だった。
日本人投手がメジャーリーグでノーヒットを達成するなんて、誰が想像しただろ
う。
「巨人の星」では、大リーグボールという名前で魔球が投げられていた。
だが、野茂はその大リーグで淡々と勝ち星をあげているのだ。
時代は確実に変わった。
野茂がいなければ、イチローも簡単にメジャーに行かなかっただろう。
近鉄の同僚だった吉井さえ、メジャーで投げるようになったのだ。
メジャーに行くとき近鉄との交渉がこじれたため、任意引退の形になっているこ
とから、野茂の日本での保有権はオリックス・バファローズにあることになって
いる。
野茂は日本のプロ野球で投げるだろうか。
私はそうしないような気がする。
できれば、我が松山のマンダリン・パイレーツに来て監督をしてほしいが、縁も
ゆかりもない土地の独立リーグに来てくれることはあるまい。
しかし、野茂は野球の巨匠である。
何らかの形でベースボールにかかわってくれると信じている。
今はゆっくりと身体を休めてください。