ドリアン

96年の年末年始に、シンガポールとマレーシアを旅行したことがある。
私は、そのとき初めてドリアンを食べ、これほど旨い果物はないと思った。


よく、テレビなどで臭いフルーツとしてドリアンが登場し、芸人たちがオーバーなリアク
ションをとっているが、あれは演出だろう。
少なくとも私にとっては、魚介類の生臭さに比べたら、何の問題もない。


あれは、クアラルンプールの街角をぶらぶらしていたときだった。
屋台にドリアン売りのおじさんがいて、大きな鉈であのトゲトゲの実を真っ二つに割って
いたのだ。


好奇心にかられ、半分の実を買ってみた。当時の日記によると10リンギットとある。
今のレートだと311円だ。安い。
一緒にいた友だちは、やはり臭いのか食べなかったが、私はねっとりとした濃厚な味に
夢中になって、猿のように平らげてしまった。
その屋台には、ありがたいことに水が急須のようなものに入れてあって、それでベトついた
手を洗った。


それから、また市内を観光して、夕食を食べ、映画を見に行った。
チャウ・シンチー主演の「食神」というやつだった。
マレーシアの映画は、字幕がマレー語・英語・北京語の3種類が同時に映し出されるので、
画面の下三分の一が字幕になる。見づらいことこの上ない。
しかし、「食神」はバツグンに面白く、日本でももう一度見たぐらいだ。


映画館の帰りに、またドリアンが食べたくなり、屋台を探した。
すると、発泡スチロールの皿に、食べやすいように切ってあるドリアンをラップで巻いて
あり、それが12リンギットだった。


本当はホテルに持ち込んではいけないらしいのだが、かまわず持って帰り、部屋で食べた。
旨い。もう中毒になりそうだ。
翌朝、腹を下したのは、たぶんドリアンの食べすぎかと思われる。だが悔いはない。
日本でも食べたいと思ったが、千疋屋のドリアンの値段を見て諦めた。


ああ、ドリアン‥‥



(ドリアンを頬張る)