覚醒剤

大学生のとき、松山の友人Rに聞いた話である。


Rの近所に小さなレンタルビデオ屋があった。3坪ぐらいで、主にアダルトビデオを扱って
いた。Rはそこの会員になり、ときどきビデオを借りていた。


あるとき、店のオヤジに声をかけられた。
「お兄ちゃん、いいビデオがあるんだけど」
これは、という客には、裏モノを貸してくれるというのだ。
Rは一も二もなく借りることにした。


そのうち、バイト代が入ると、Rは裏ビデオを買うようになった。
割と安かったらしい。私にも、そのうちのいくつかが流れてきて、ずいぶんとお世話に
なった。ありがとう。


ところが、そのレンタルビデオ屋が、ある日突然、潰れてしまった。
まあ、あんなに小さい店だし、アダルトビデオばっかだからな、とRは不思議にも思わな
かった。


その店のことなんか忘れた頃、Rの家に警察から電話がかかってきた。
「すいませんが、Rさんですよね? 警察のものですが」
「は、はい‥‥」
「あなた○○というレンタルビデオ屋の会員になってましたよね?」
「は‥‥い‥‥‥‥」


ここで、Rは(ヤバい、裏ビデオのことがバレてしまったのか!)と思ったそうだ。
たまたま、自分で電話に出たからいいものの、親にバレたらどうすればいいのか。
大学にも影響があるのかもしれぬ。逮捕されたらどうしよう。
ぐるぐると頭の中で不安が渦巻く。


ところが、警察は意外なことを言った。
「Rさんね、覚醒剤、買ってました?」
「は? いえ、見たこともありません!」
「ですよね。一応、名簿を見て電話してるんでね。ご協力ありがとう」


なんと、そのレンタルビデオ屋のオヤジは、大阪から裏ビデオとともに覚醒剤も持って
きて、誰かに販売していたらしい。
もちろん、Rは初耳だった。


それにしても、どういう基準で、裏ビデオを売るか、覚醒剤を売るか、を判断していたん
だろうか? と二人で話し合ったものだ。
学生には売らないようにしていたんだろう、という結論になったのだが、まさか身近に
覚醒剤の売人がいたとは。


ちなみにRは、今やネット通販で裏DVDを買っており、私にも貸してくれる。
便利になったものだが、お互い、ずっとモテないのがさみしい。