ピンク電話

いまは絶滅してしまったのだろうか。
昔はピンク色をした公衆電話があって、10円玉を入れて電話をかけていた。
携帯電話はおろか、アパートに電話を引くことすら難しかった80年代後半の
話である。


このピンク電話は、持ち主がいて、ちゃんと個別の電話番号が割り振られて
いた。もちろん、10円玉を使って利用する人は知らされてない。


当時、私が最初に住んだ風呂なし共同トイレのアパートには、廊下に
ピンク電話が設置されており、電話番号も教えられていた。
大家さんが親切だったので、緊急時の連絡などで必要だろうということで
電話番号も住民に知らされていた。


そこで私は悪事を思いついた。
コレクトコールである。
(コレクトコールとは、電話を受けた人が料金を払う通話で、事前に
オペレーターからかかってきた電話で本人が了承することになっていた)


高校のときに仲がよかった友人たちは、地元の大学か関西の大学に進学して
いた。私は上京したばかりで友達がなく寂しかった。


そこで、私は彼らにコレクトコールでピンク電話にかけるようにして
もらった。
最初は私が10円玉をつかってかけて、すぐに切るのである。
そして、電話の前で待っていると、オペレーターから電話がかかってくる。
「○○さんですか? コレクトコールです」
私はもちろん電話の持ち主になりすまして
「いいですよ、どうぞ」
と言う。


これで、いくら電話をかけても料金は契約している大家さんのところへ
請求されるのだ。
私は調子に乗って、東京・大阪間で、最高6時間喋ったことがある。


しかし、悪いことはできないもので、私は地元の後輩と電話してしまった。
そして、私が住んでいたアパートには、その県の出身者は私しかいなかった。


電話の請求に驚いた大家さんが、NTTに問い合わせて、どこからコレクト
コールがかかってきたのか調べられたのが運の尽き。
私は約6万円を請求され、必死になってバイトをして返済した。


いま、自分の携帯を持っていても、そんなに電話することはない。