平日のレイトショーで観客は60人ぐらい。
以下、ネタバレあります。
この映画を見た人がほとんど物語について書いていないのは、
ネタバレを避けるという意味もあるが、内容をまとめられず、
見たほうが早いと判断しているからではなかろうか。
「何これ?」「なんでここにいるの?」「今まで何してたの?」
みたいなことが氾濫していて、あまり整合性がないように
見える。
もっとも宮崎駿の中では、きちんと辻褄が合っているはずで、
その解釈の余地を残しているのはサービスと言えるかもしれない。
商業映画を公開する以上、黒字にしなければならない。
そのためには多くの人が楽しめる内容が望ましい。
鈴木敏夫プロデューサーと何度もぶつかっていたはずだ。
そういう枷から開放されるようになったのは「もののけ姫」以降
だろうか。
「崖の上のポニョ」から顕著になっていって、「風立ちぬ」あたりで
整合性とかどうでもよくなっていった気がする。
宮崎駿の脳内では「君たちはどう生きるか」のような世界が
普通に存在していて、創造の苦しみのようなものはないのでは
ないか。
そのイマジネーションに整合性をつけて他者に説明しなければ
ならないところに産みの苦しみがあったのではないか。
なので、宮崎駿の主観的には、この作品は以前よりもしんどくは
なかったと予想するが、どうだろうか。
↓
それにしても、大型の鳥に対する悪意というか恐怖というか、
なんとも禍々しいものを感じる。
これまでの宮崎駿の映画で、大型の鳥が登場したことが
あったっけ?
飛行機は必ずといっていいいほど出てきたが、今回は封印
されている。それを鳥に置き換えたということだろうか?
個人的には、あのアオサギは鈴木敏夫ではないかと思って
いる。詐欺師だけに。
そうそう、この映画では少女が後半にしか登場しない。
それも主人公の母親の少女時代である。
お客さんを呼ぶ映画には、ヒロインがつきものだが、そういう
娯楽性はどうでもいいみたいだ。
むしろキリコさんのような中年女性が活躍している。
最初に老婆たちが登場したのを見て、白雪姫の七人の小人だと
思ったが、これはオマージュだろうか。
あと、帆船で大きな魚を獲って曳航していく様子はヘミングウェイの
「老人と海」みたいだった。他にも教養がある人が見たら、
たくさんのイメージが発見できるだろう。
↓
今作の宮崎駿のセルフイメージは、異世界で積み木のバランスを
とる大叔父さまだろう。
インコ大王による破断は、原子爆弾の投下を彷彿とさせる。
核兵器出現後の世界を「君たちはどう生きるか」という
問いかけなのか。
もうひとつ、大叔父の後継者はいなくなった、ということも
宮崎駿のメッセージかもしれない。
彼のような天才はもう二度と現れないのだ。
物語は終戦から2年後に、主人公が疎開先の部屋を出ていくところで
唐突に終わる。
この少年が大人になってアニメーションを作っていくのだ。
私達は宮崎駿の最後の作品を見て、最初の作品へと戻っていく。
すごい映画監督と同時代を過ごせたことを幸福に思う。