それが少ないと薄っぺらいものになってしまう。
それを自覚しつつ、「サラバ!」の読後感を述べるなら、村上春樹と夏目漱石と
又吉直樹を米国文学でミキサーにかけたもの、だろうか。
読み応えのある長編だったけれど、語り手が高校生から大学生になり、そのまま
ライターになっていくあたりで読んでいてムカついた。なぜムカついたのだろうと
考えると、村上春樹の小説の主人公のようだったからだ。
そして父親が離婚の真相を語るあたりはほとんど夏目漱石の「こころ」や「門」
だし、須玖というキャラクターは又吉直樹そのものだった。
文庫本の解説を又吉直樹が書いているのは、そういうことだろう。
小説の技法的には、家族の誰かが死んでもよかったし、友達が死んでもよかった。
よかったというのは言い方が変だけれども、その方が語り手の魂が救済される
ときに効果があったのでは、と思う。
それを担ったのが矢野のおばちゃんだったのだろうけど。
というわけで、私個人としては「サラバ!」はあまり評価できない作品に
なってしまった。