*[本]光

光 (集英社文庫)

光 (集英社文庫)

何の予備知識もないまま読んで、ぐいぐい引き込まれてしまった。
舟を編む」とか「風が強く吹いている」が“白しをん”だとしたら、
本作は“黒しをん”が執筆している。
純文学寄りの小説は“黒しをん”のことが多い気がする。


三浦しをんはこの小説で、自分の中にある宗教的なものをえぐり
出したかったのではなかろうか。
たしかキリスト教系の学校に通っていたはずなので、聖書を読まされて
いたはずだ。


そもそも設定がノアの箱舟のようなものである。
しかし、生き残った者は誰も神を信じたりしていない。


主人公の信之にとって、神は美花だけであろう。
その美花にも捨てられてしまうのに、再び日常に戻ってくるのが
すごい。救いのない世界で生きることを選ぶのである。


主人公の妻もまた虚無を抱えて生きている女である。
すべてを知りながら、戻ってきた夫と家庭を復活させようとする
のが怖い。


東日本大震災の前に書かれたことも驚きである。
そういう予兆でもあったのだろうか。単なる偶然だとは思うが。



三浦しをんの純文学系の小説には、女に不自由しない男が多い気がする。
本作なら輔がそうだ。よほどイケメンなのだろう。
映画では瑛太がキャスティングされていた。


アイフルのCMに出ている今野みたいな顔でもよかったのではなかろうか。
そしてまったくモテない。信之の妻も浮気をしないことになるし、封筒も
投函されなくなってしまうので成り立たないが、その方がリアリティが
あるような気がする。