*[本]私が語りはじめた彼は

私が語りはじめた彼は (新潮文庫)

私が語りはじめた彼は (新潮文庫)

私は三浦しをんの作品を時系列で読んでいないので、こういう純文学系の小説は
後回しにしていた。
「風が強く吹いている」や「神去なあなあ日常」、「まほろ駅前シリーズ」の
ような長編や爆笑エッセイ集を読んでから、「私が語りはじめた彼は」を読むと、
ポピュラー音楽でヒットを飛ばしていた人が、玄人筋をうならせるようなクラ
シック音楽のピアノ協奏曲を書いていた印象を受ける。
実際はこの作品の方が長編作品より先なのだが。


ということは、当たり前だが三浦しをんは純文学で本気を出すと、かなりの
豪速球を投げられるということだ。
すごいなあ。



ちなみにこの作品は村川融という学者が次々に手を出していく女たちの
話である。いや、女たちとその家族や周辺の人たちか。


敢えて村川という学者の内面は描かれていない。
イケメンではなく「肝臓を悪くした狸」みたいな顔、とある。
実写化するならドランクドラゴンの塚地みたいな感じか。


なぜこんなにモテるのかが分からないけれど、人妻や女子大生など
手当り次第である。うらやましい。
が、それによって傷つき翻弄される家族はたまったものではない。
台風の中心がぽっかり空いているようなものだろうか。



本作の素晴らしさは文庫本の解説を読めば分かる。
私は本作の中で「予言」だけが、妙にBL小説っぽいのが気になる。
あれはもっと純文学っぽくやろうと思えばできたのではなかろうか。