*[本]政と源

墨田区に住む老人ふたりを中心に描かれる下町の人情物語を装った、
枯れ専BL小説である。たぶん。
普通に年寄りの日常のあれこれが書かれた話に読めるんだけど、
BL好きが読んだら分かる何かがあると思う。よく知らんけど。


舞台の町には江戸時代から残っている水路があって、主人公たちは
当たり前のようにボートに乗って移動している。
こんな町がまだあったのか、と驚いた。


よく読むと、政こと有田国政の内面は書いてあるが、源こと堀源二郎の
心理は書かれていない。あくまでも政から見た源の描写だけである。
なぜそうしているのか。政にとって源がヒーローだからだろう。
元銀行員が簪職人の生き方にあこがれているのである。
職人をリスペクトする三浦しをんらしい佳作だった。



ところで、本作は集英社オレンジ文庫から出ている。
同様なものに新潮社nexというのがあり、ともにライト文芸という
くくりの小説を出版しているらしい。


ライトノベルやマンガと一般的な文学小説の中間のレーベルだと
思うが、読者はどのくらいの年齢層なのだろうか? 
出版社は20代を想定しているはずだ。


その20代の読者向けの小説で、74歳のおじいさん二人を主人公に
するというのは、かなり冒険なのではあるまいか。
編集者とどういうやりとりがあったのか気になる。


有川浩の「三匹のおっさん」が当たったので、そういうものを、
というオファーだったのだろうか。
いや、やはり三浦しをんなので、枯れ専BLを一発かましてやろう、と
意気込んだに違いない。
マンガにするなら「昭和元禄落語心中」の雲田はるこでしょうな。