*[本]バベル九朔(文庫版)

バベル九朔 (角川文庫)

バベル九朔 (角川文庫)

本作は文庫化するときに大幅に書き直している。
単行本が未熟な果実だとすれば、文庫本は水分を抜いたドライフルーツと
いうところだろうか。旨味は凝縮されているが、私は単行本の方が好みだ。


いちおう単行本と文庫本を読み直して見ると、作家がどのような推敲を
しているかが分かって面白い。
なぜ文庫本で書き直そうと思ったかは本人に訊いてみないと分からないが、
舞台をひとつに絞った方がいいと判断したからではなかろうか。


単行本では、主人公は絵の中の世界に吸い込まれ、そこからビルに登って
いくが、文庫本では絵の中の世界はすべてカットされている。


作者の目論見としては「偉大なるしゅららぼん」の世界とリンクさせようと
したのではないかと思われる。
すなわち、湖の力を利用する人々の話で、名前にはさんずいがついている、
という設定があるが、単行本ではそれにしたがって大九朔のフルネームは
九朔満男、主人公のフルネームは九朔満大になっている。


しかし文庫本では彼らのフルネームは明かされない。
湖の民との関係も語られてはいないが、蜜村さんの故郷がどこか言うあたりに
うっすらと匂わせている。



文庫本では舞台をビルに限定したので、登場するテナントの数が倍増
している。それぞれの名前が何かのパロディかもしれないが、私は
それが分からなかった。


万城目学週刊文春で、自分が大学生から作家になるまでのことを
エッセイにしている。
ビルの管理人になっているところを読むと、この作品に書いてあることの
元ネタが分かる。ネズミの死骸や吐瀉物や便を処理したエピソードもあって
生々しい。



文庫本で大幅に書き直してすごく面白くなったかというと、そうでもない
気がした。構成はすっきりしたけれど、相変わらず変な読後感があって、
もやもやしている。


ちなみに実写化するなら、主人公は生田斗真、大九朔は山崎努、初恵おばさん
夏木マリといったところか。鉤鼻でなければならないのが難しい。