江戸しぐさの正体

江戸しぐさが一人の老人の妄想の産物だった、ということを詳細に明かした
本である。


その老人の周辺だけでとどまっていたらよかったのだが、それをビジネス書
で利用した女がいたことから、思わぬ方向に広がってしまった。
いわば、インチキがインチキを生んで、とうとう学校の教科書に載るように
なってしまったのだ。


私は、このインチキが教科書に掲載される過程で、TOSSという教育研究集団が
最も胡散臭い働きをしたように思えた。
本書では軽く触れた程度だったが、この集団の闇を暴いてもらいたい。



私が江戸しぐさなるものを最初に見たのは、たしか読売新聞の広告だったと
思う。そこには「傘かしげ」や「肩引き」という行動がイラストで紹介されて
おり、当時は疑うこともなく、そういうのがあったのか、と思った。


江戸しぐさのやっかいなところは、示されている内容の多くが道徳的には
それほど問題がない、ということである。
他人を不快にさせないマナーを学ぶという点では、子供に教えても悪くは
ないのでは、という意見もあろうと思う。


しかし、江戸時代には誰もやっていないことを、あたかも江戸っ子がやって
いた、と嘘を教えるのは間違っている。
子供に公共心を教えたいのなら、そういう嘘に基づくものではなく、現代の
マナーとして提示すべきだろう、という本書の趣旨に全面的に賛成だ。



とはいえ、ほとんどの子供は学校で教えたことの6割ぐらいしか定着しない
ものだ。
江戸しぐさを鵜呑みにする前に、ほとんど忘れてしまうのではないか。


むしろ、ビジネス書しか読まない頭の悪い大人が鵜呑みにする可能性の方が
高い。
江戸時代はよかった、という幻想をふりまく人は他にもたくさんいるのだから。



多くの人が指摘していると思うが、念のため。
P 162 の8行目に誤植があります。


☓ (extras ensory perception)
◯ (extra sensory perception)