ラーメンと愛国

ラーメンと愛国 (講談社現代新書)

ラーメンと愛国 (講談社現代新書)

この本は、あとがきでも書いてあるが、20世紀の諸問題を日本が
どのように受容してきたかを、ラーメンというものさしを通して
なぞったものである。


なので、ちょっと牽強付会かな、という部分もあるけれど、なか
なか面白かった。


多くの読者が手に取ったのは、なぜ最近のラーメン店の従業員は
作務衣を着ているか、という謎の解明のためだろう。
本書の p 207 には

 こうした作務衣を着るラーメン店主のイメージを生んだのは、
おそらく「博多一風堂」の創業者である河原成美である。

とある。


若いころ無茶をしていた河原成美という人が、どうして作務衣を
好むようになったのか、は謎のままである。
(根がヤンキーだったからではなかろうか)


だが、いま作務衣と呼ばれている着物は、甚平ともんぺを合わせた
もので、歴史も浅く日本の伝統とも全く関係ない、とある。
要するに、変形学生服のオッサン版であろう。


1990年代後半には作務衣系の衣装がラーメン屋の従業員のものとし
て完全に定着したらしいが、私が思い当たるのは松本人志の「一人
ごっつ」という番組である。


特筆すべきことは、松本人志は番組で作務衣を着ていたのである。


それ以前にも、コントで作務衣を着ていたことはあったが、この番組
のコンセプトは、一人で笑いを追求していく、という修行のような
もので、放送作家が大仏の役で、声だけの出演をしていた。


この、孤高の笑いを追求していく、という姿勢が、元ヤンキーのハー
トを直撃したのではなかろうか、と私は推理するのである。


ググると1996年10月から1997年3月まで放送されており、作務衣系の
衣装が定着する時期とほぼ重なる。


まあ、これは私の単なる思いつきなので、調べると間違っているかも
しれないのだが、あの当時、作務衣の衣装を着た影響力のあるタレン
トというと、松本人志しかいないのではないかと思うのだ。


この本では、結論として大澤真幸の「帝国的ナショナリズム」に着地
点を見出している。
そこがちょっと惜しい。


この本で二流のライターから一流の論客になるぜ、という野心があふ
れすぎていて、ちょっと高いところに手を伸ばしたな、という感じが
するのだ。


できれば、ヤンキーとラーメン屋の関係をもう少し深く掘り下げてほ
しかった。