センセイの鞄

センセイの鞄 (文春文庫)

センセイの鞄 (文春文庫)

朝日新聞で連載中の川上弘美の「七夜物語」が面白いので、他の作品も
読んでみようと思った。
ちょうど古本屋で売っていたので買ってみた。
滋味深い作品であった。


谷崎潤一郎賞を受賞しているのは、老人の性を描いたからだろうか? 
といっても、そんなに生々しいものではない。
主人公のツキコさんは40前のOLで、センセイは60代の老人である。
ふたりは生徒と教師の間だったが、十数年ぶりに行きつけの飲み屋で再会
したのである。


小説はツキコさんの視点で描かれている。
なので、センセイの気持ちは謎のまま物語は進む。
私が、女性の作家らしいなぁ、と感じたのは、センセイの微妙な表情やし
ぐさを決して見逃さないでいるところだ。


自分が恋する相手のことを、相手に気づかれずに観察し、自分だけが分か
る何かを少しずつ味わう。女だなぁ、と思う。
相手に自分が観察していることがバレては楽しみがなくなるので、あくま
で無関心を装うのがコツである。


しかし、物語の中盤に、小島孝というツキコさんの元同級生が出てくる。
バツイチの、ツキコさんに気がある男である。
これがいい補助線になって、ツキコさんのセンセイへの気持ちが読者には
っきりと分かるような仕掛けになっている。
あわれ、小島孝はキスまでは許されたが物語からは退場させられる。


そして終盤でツキコさんとセンセイは結ばれるわけだが、どうもひとつ
引っかかっていることがある。
それは、ツキコさんが以前つきあっていた男性とのセックスである。


行間を読むに、20代のころには恋人もいて、それなりの性生活はあったと
思われるのだが、あまり愉しいものではなさそうである。
義務的なものだったのかもしれない。


つまり、ガツガツとセックスを求めない草食系女子としては、もっと精神
的なつながりが欲しい、ということだろうか。
頭を撫でてもらう場面が何度も出てくるが、そういう方が嬉しいのだろう。


ググると、2003年にWOWOWでドラマ化されている。
ツキコさん役が小泉今日子で、センセイ役が柄本明だそうだ。
うーむ。


ツキコさんは、菅野美穂深津絵里でもいいし、もっとリアルにいうなら
田畑智子多部未華子が老けたぐらいがちょうどいい。
難しいのはセンセイである。藤村俊二ぐらい飄々とした人がいいのだが、
なかなかそういう人がいない。


いまだと、橋爪功かなぁ。
映画にするのに、ちょうどいい話だと思うのだが。