かのこちゃんとマドレーヌ夫人

かのこちゃんとマドレーヌ夫人 (ちくまプリマー新書)

かのこちゃんとマドレーヌ夫人 (ちくまプリマー新書)

夏休みの読書感想文にお薦めの一冊だ。
といっても、私は読書感想文という制度には反対で、あれは出版社と広告代理店が
結託した陰謀だと思っている。
それはさておき。


かのこちゃんは小学1年生の女の子で、マドレーヌ夫人はアカトラの猫である。
夫人というのは、かのこちゃんの家で飼っている犬と夫婦だから。
猫族には例外的に、マドレーヌ夫人は犬の(厳密には夫の)言葉が分かるのだ。


なおかつ、マドレーヌ夫人は不思議な力で、一時的に人間になることができる。
この能力で、かのこちゃんのピンチを救うわけだが、それは読んでのお楽しみ。


一応、直木賞の候補作になったわけだが、これはどうかな、と思う。
もちろん面白い作品ではあるのだが、さすがに受賞を狙ってノミネートはして
いないと信じる。


以下、余談。


小学生の日々を克明に記憶している人は幸福だと思う。
私は記憶力に欠陥があるらしく、小学生はおろか、中学生のときの記憶もほと
んどない。


なぜかというと、その当時、自我が母親と同化しており、自分の人生を生きて
いなかったからだ。
私が自分を取り戻すのは高校生になってからである。
ずいぶん遅い自我の目覚めであった。


それはともかく、小学生の、それも1年生のときの記憶というのは、実はほと
んどの人にとって曖昧なものではあるまいか。
もっと言うなら、記憶は現在の自分が都合よく再構築したものであるから、
ちゃんとした記憶というのは誰にもないのかもしれない。


その意味で、この小説は、読者の記憶の再構築を手助けするものだと思う。
つまり、親世代で読んだ人にとっては、小学1年生の心理を追体験できる小説
ではなかろうか。


もちろん、小中学生が読んでも楽しいお話である。
ただ、小中学生に二度となれない大人が、その喪失感を味わうことができる。
これは現役の小中学生にはできない。


ジブリでアニメ化してほしいと思ったが、すでに「猫の恩返し」という作品が
あるので、別の会社がアニメにしてほしい。
すでに企画は動いていると思うが。