山田悠介を分析する

私が学習塾で教えていたころ、中2の生徒が山田悠介の「リアル鬼ごっこ」を
読んでいた。これが最初の出会いである。


毎週聴いている道重さゆみのラジオ番組の中で、彼女が面白いと言っていた
のが山田悠介の本だった。これが二番目。


そして、私が毎週チェックする「つぐながさん」というマンガを掲載している
ブログでも批判的に紹介されていたのが決定打になり、読んでみることにした。


私が読んだのは「リアル鬼ごっこ

リアル鬼ごっこ (幻冬舎文庫)

リアル鬼ごっこ (幻冬舎文庫)

親指さがし
親指さがし (幻冬舎文庫)

親指さがし (幻冬舎文庫)

「×ゲーム」
×ゲーム (幻冬舎文庫)

×ゲーム (幻冬舎文庫)

の三冊である。


なんというか、出汁のとり方も知らない人が写真だけ見て作った料理を食わさ
れたような感じだった。


例えば「リアル鬼ごっこ」では、一週間で500万人の人間が殺されている。
一週間で500万人の人間を処理するのは物理的に不可能だと思うのだが、山田
くんはリアルな数字ではなく“たくさん”の意味で使ったのだと思われる。


さらに言えば、500万の人間を意味もなく殺すと、経済に重大な影響が出るは
ずだし、その国の通貨は暴落すると思うが、これを書いた当時の山田くんは、
そういうシステムについて無知だ。


突っ込むところしかない本なのだが、これは小学生の描いた絵を見て、デッサ
ンが狂っていると指摘するようなもので、ある意味大人げない。
むしろ、どうして山田くんの本が売れているのか、を考えた方が建設的だ。


・どこに分類されるか? 


そこで、ひとつのマトリックスを考えてみた。


           ↑(賢い)
           |
         B |  A
リテラシー低)  |      (リテラシー高)
     ←−−−+−−−−−→
           |
         C |  D
           |
      (バカ) ↓


きちんと表示されないかもしれないが、縦軸が小説を書く人の賢さで、横軸
が読者の読みとる力である。


Aがいわゆる文学と呼ばれるもので、人類の知を表現できる人がインテリに
向けて書いた作品である。


Bはジュブナイル小説などの、大人が子供のために書いた物語である。
少年マンガもそうかもしれない。


子供の目に触れる小説は、だいたいAかBだった。それ以下の作品は出版さ
れないか、自力では発見できなかったからである。


山田くんの小説は、Cにカテゴライズされる。
バカがリテラシーの低い読者のために書いた作品である。
携帯小説もここだ。
ライトノベルの多くもここに入るが、若干B寄りであろう。


Dは分類した私にもよく分からない。
敢えて言うなら、戦後のカストリ雑誌のエログロ小説とかだろうか。
小説のジャンルでなければ、トンデモ本がカテゴライズされると思う。


・なぜ売れるのか? 


では、このマトリックスを読者数にあてはめてみよう。


           (賢い)
リテラシー低) B ↑ A
  ←−−−−−−+−−−→(リテラシー高)
            |
        C   |  D
            |
            |
      (バカ) ↓


Aのような文学作品の読者は、だいたい10万人ぐらいだろう。
そして、出版社は主にAとBの市場に売り込んでいたわけである。


だが、圧倒的に多いのはCである。
この巨大な市場が儲けになると気がついたとき、山田くんの本が出版
される運びになったのであろう。


ラノベとの違い


では、ライトノベルとは何が違うのだろうか? 
クリシェ<お約束>だけで書かれているため、頭を使わなくても最後まで
読めるのはラノベと同じである。


違いは、萌えなどのオタク要素の有無である。
山田くんの本の読者にとって、オタクと思われるかどうかは死活問題な
のだ(たぶん)。


その点、山田くんの本は普通の小説のように偽装している。
まるで、自分がAのカテゴリーの小説を読み通せたような錯覚を抱くこ
とができるのかもしれない。


だが、Cのカテゴリーの読者のほとんどは、大人になってもダイエット
や血液型の本しか読まないのだ。
それはそれでかまわないのだが、そういう人が子供に読書をしなさい、
と言うのはどうかと思う。


・山田くんの本に飽きたら


山田くんの本を3冊読むと、さすがに技巧が上手になっているのが分か
る。「×ゲーム」などは、郵便局でバイトでもしたのか、妙に具体的に
なっていてよかった。


けれども、基本的にはRPGのような展開である。
どこかへ行って人に会ったら、何か情報を話してもらうことの繰り返し
で、こんなにサクサク進んだら苦労はない。


もし、山田くんの本を読んで、なんか物足りないなぁ、と思った人には
スティーヴン・キングの本をお薦めする。
リアル鬼ごっこ」が好きなら「死のロングウォーク」がいい。

10代の少年がいっせいにスタートして、途中で止まったら射殺される。
最後まで歩いた子は何でも願いをかなえてもらう、という話。


「×ゲーム」が好きなら「ミザリー」を。

ミザリー (文春文庫)

ミザリー (文春文庫)

キャシー・ベイツ主演で映画にもなっているけど、小説は映画とは違う
切迫感がある。


親指さがし」が好きなら、ちょっと長いけれども「IT」がよろしい。

IT〈1〉 (文春文庫)

IT〈1〉 (文春文庫)

少年時代デブだった子が、大人になったらイケメンになっている、とい
うパターンの元祖は、たぶんこの小説。


それにしても、人にここまで書かせる山田くんの本はやっぱりすごい。
なんでこんなもんが売れているんだ、という怒りが書かせるのかな。


ちなみに、文庫本の解説が、どうやって褒めようか、ものすごく苦労
していて面白かった。まともな作家には頼めないし。