バゴンボの嗅ぎタバコ入れ

ヴォネガットの初期短編集で、作者の没後に文庫になったものである。
正直、私はアメリカ文学の(というかほとんどの)短篇小説の味わいがよく分からない。
読み手として、文学的センスがないんじゃないかと情けなくなる。


というのも、私にとって短篇小説といえば星新一ショートショートであり、このセンス・
オブ・ワンダーを超える作品はあまりないのではないかと思うのだ。
恐らく、私は精神的に成熟していないのだろう。


あるいは、短篇小説というものは、発表された時代や地域特有のフレーバーを嗅ぎ分ける
能力がないと、無味乾燥なものでしかないのかもしれない。
この文庫本に収録されているものは、1950年から63年に発表されたもので、その時代の米
国のカルチャーを知らなければ、最後まで読んでも「で?」という感想しかないものもある。
そう思うのは私だけかもしれないが。


ただ、その中でも時代を越えた普遍性がある作品もあり、ほぼ時系列に収録されているの
で、尻上がりによくなっている印象がある。ヴォネガットの作家として成長がうかがえる。


私が面白かったのは、高校のマーチングバンドの教師と生徒の関係を描いた「才能のない
少年」で、ヴォネガットはこの設定が気に入ったのか、同じ主人公で「野心家の二年生」と
「女嫌いの少年」という作品を書いている。


スラップスティック映画のようなテイストで面白かったのは、マフィアの幹部にクリスマ
スプレゼント贈る「サンタクロースへの贈り物」で、「裸の王様」にシニカルな味付けを
したような感じがした。


シニカルといえば「2BR02B」という作品で、虚しい終わり方がヴォネガットらしい。
やはりSFだと発想が自由になるみたいで、彼の長編小説とも共通する自殺願望が露骨に表
れていたように思える。私はこの短篇が最も好きだ。


現代では短篇小説作家がどのくらいいて、どういう評価をされているのか分からないが、
作者本人も解説しているように、小説的に豊かな時代の産物だったのだろう。
そういや、アーウィン・ショーっていう作家がいたなぁ、と思い出したけど、「夏服を着た
女たち」しか読んだことがなかったのだった。やれやれ。


本文と写真はまったく関係ありません

日付は去年のものです