*[本]あの家に暮らす四人の女

あの家に暮らす四人の女 (中公文庫)

あの家に暮らす四人の女 (中公文庫)

ページをめくるうちに、ああ終わっちゃう、もっと読みたいのに、と
思わせる一作だった。
ドラマ化されたようだがテレ東系だったので見ていない。
中谷美紀が佐知を演じていたけど、私のイメージだと安藤サクラか杏
だな。


谷崎潤一郎の「細雪」が元ネタになっていることは、物語がスタート
して早々に明かされるけれど、物語の語り手が誰であるか、驚くべき
しかけがあって楽しい。文庫本の表紙になぜカラスが描いてあるかも
読めばわかる。


あと、アラフォーの女性は水着をどこで買うのか、という別に詳しく
知りたいわけではないが、たしかにどこで買うんだろう、という問題が
提起されていて、水着は若い女性が買い求めるもの、という思い込みが
あったことを恥じたい。


あまり意味はないかもしれないが、この小説をもとに高橋留美子
マンガ化したら面白いんじゃないか、と思ったりした。


ちょっと怖かったのは次の部分。

つまり、佐知はさびしかった。ほとんど全身全霊をこめて刺繍に
取り組んでいるからこそ、「本当に私の刺繍をわかってもらえて
いるのか」と常に不安だった。ハンカチやブラウスやバッグの
ワンポイントとして、ただ単に「あら、かわいい」ですまされて
しまうのは、佐知にとってときに耐えがたいのであった。その
ワンポイントに、どれだけの時間と思考と情熱を傾けたか、
だれか一人でも想像してくれるひとはいるのだろうか。


 むろん、おおかたの場合、佐知は納期にまにあうよう必死に
作品を仕上げ、「気に入ってくれるひとがいるといいな」と
おおらかに構えている。だが、たまに-弱気になったときなど-
叫びたくなる。私は遊びも恋も放擲して、毎日チクチクやっている! 
その気力と根性にちっとも気づこうとせず、「あら、かわいい」
「オシャレ」などと気軽に刺繍を消費し、あまつさえ私の刺繍で
身を飾って、街歩きやらデートやらを満喫するのか、おのれらは! 
一針一針に我が情念をこめて、おのれらの魂に直接刺繍して
やりたい。おのれらの魂から噴きだす血潮で白糸を朱に染め、
ものすごくリアルな髑髏を刺繍してやりたい! (p202-203)

刺繍作家の叫びとして書いているが、小説家の叫びでもあろう。
なんか、単に「面白かった」と言うのがはばかられる。
苦労をしのびつつ読もう。