遠い国から来た男

日本のテレビドラマからインテリジェンスが失われたのは、いつからなんだろうか。
たぶん、80年代に若い女性をターゲットにした作品がヒットしてからだろう。


山田太一のドラマは、おそらく彼と同世代ぐらいの老人に向けて制作されている。
台詞まわしが独特で起伏にとぼしいストーリーなので、若者は見ないだろう。
むしろ、老人だけ見てくださいと言わんばかりの作りが清々しかった。


物語のキーになるのは、60年の安保闘争のときに流行したらしい中国民謡の「草原情歌」で、
歌声喫茶小室等らが唄うシーンがある。この歌を知っている世代の人にはたまらないものが
あっただろう。


老人は自分がもうすぐ死ぬと分かっているから、ラディカルになるか懐古趣味になるかどちら
かである。
このドラマでは、その両方を描いていたが、多くの人は過去を懐かしむ方を選ぶだろう。


いや、すでに私たちの世代でも、70年代や80年代の風物をすでに懐古している。
コロコロコミックの復刻版を買ったりとか)
心がすでに老人になっているのか、未来にあまり希望がないのか、どちらにせよあまり健全な
ことではないと思う。


あと、仲代達矢がお猪口やグラスを持って飲もうとすると、細かく手が震えていた。
あれが演技だとしたら、すばらしい。50年ぶりにうな重を頬張るところも、いぶし銀の芝居
だった。
また、NHKの朝ドラ「さくら」以来、あまり活躍していなかった高野志穂のやわらかい演技も
よかった。最初の方のスペイン語も完璧だったと思う。


正直、脚本はそれほどよかったとは思えないけれど、キャスティングがよかったために演技で
救われていたドラマだった。