それでもボクはやってない

平日のレイトショーで客は10人ぐらい。
田舎だから、ほとんどの人がクルマ通勤をなので、痴漢冤罪について興味がないのかも。
でも、刑事裁判というのがどういうものか、すごくよく分かる映画だった。
ネタバレするのでたたみます。




私は総武線御茶ノ水駅で、女性が、痴漢だと言って男を連れ出しているのを見たことがある。
夏だったので、男のTシャツの首のところをぐいぐい引っ張っており、ダルダルになっていた。
急いでいたので、そこから後は知らないが、大都市圏で生活していたら、一度ぐらいは見た人も
多いのではなかろうか。


改めて言うまでもないが、痴漢は犯罪だし、やっている奴はどうしようもないバカだと思う。
そういう一部のバカのために、ほとんどの人が迷惑しているのが現実だ。
これは何も痴漢に限ったことではなく、ハイジャック防止のための荷物検査とか、飲酒運転検問なんか
もそうだけど、社会というのはそういうバカを必ず含むものだ。


その一方で、痴漢冤罪というものも現実にあり、たかだかといっては失礼だが、女の尻を触った容疑で
一生を台無しにされる場合もある。
この場合、警察や検察、裁判官にも問題があることが、映画の中で描かれている。



主人公(加瀬亮)は26歳のフリーターで、面接に行くために満員電車に乗っていた。
慌てて乗り込んで、電車の扉にスーツの後ろを挟まれ、手を動かしていたところを痴漢と間違えられる。


そこから警察に連れて行かれ留置場に入れられる、という流れはテレビでも見たことがあるし、知識と
しては知っていたけれど、あんなに狭いところにヤクザみたいな奴とかと一緒に放り込まれるとは思わ
ず、「ブタ箱」とはよく言ったものだと思った。


このシーンで、同室の本田博太郎加瀬亮に(同時に映画を見ている人にも)留置場ではどういう風に
寝起きするのか、とか、当番弁護士に連絡できる、ということを教えてくれる。
この人はいったい何の罪で勾留されてるんだろう、と疑問だったが、映画の最後まで明かされることは
なかった。
(映画のサイトでは詐欺師になっていた。なるほど)


警察の一方的な取調べや、ほとんど警察が作文する調書も見ていて不愉快だったし、副検事の横暴な
振る舞いも腹が立ったが、実際あんなものだろうと思う。
踊る大捜査線」の刑事や弁護士、「HERO」の検事とは大違いだが、同じフジテレビのプロデューサー
が制作してるのがおかしい。


実際は罪を認めて罰金を払えばそれで終わりらしいが、主人公は頑として自分の非を認めず裁判で争う
ことになる。
なんで主人公に、ここまで強力な意志があるのかが分からなかったけど、そういうキャラクターじゃ
ないと話が進まないからでしょう。
それ以外の、加瀬亮の「普通の人」の演技は見事だった。ほとんどの観客は、彼に気持ちを預けられる
んじゃないかと思う。


私が一番びっくりしたのは、公判中に裁判官が交代することだった。
ひとつの事件は、罪状認否から判決まで、ひとりの裁判官が処理するものと思っていた。
良識派の裁判官(正名僕蔵)から、官憲派の裁判官(小日向文世)に代わることを描くことで、いかに
判決が裁判官のものの見方で決まるかが浮き彫りになる。
このときの小日向文世は、無機質というか冷たい演技をみせており、うまいなーと思ったです。


その後、証言をしてくれる目撃者を探したり、実際の電車の状況を再現するビデオを撮影したりするの
だが、これもけっこうお金がかかることであり、無実を立証するのは容易ではない。
まして、そうしたところで無罪になる保証はないのだ。


映画では、痴漢の被害に遭った少女に悪意はないことになっている。
そこは救われる部分だけど、彼女のような女性ばかりではあるまい。
痴漢冤罪の多くは、悪意から生まれている気がする。


話は脱線するが、下着メーカーは何か特殊な塗料というか香料のようなものを開発できないだろうか? 
スカートの中に入れた手が下着に触れた場合、後から調べて指に反応が出るようなものを作れば、
「触った」「触ってない」の水掛け論はなくなると思うのだが。
(もっとも、スカートの上から触る痴漢には手の出しようがないけど)


そうそう、検察は起訴した場合、容疑者の部屋やパソコンを調べるんですね。
私なんか、パソコンの中身を見られたら大変だ。エロビデオだって持ってるし、性犯罪者と罵られるかも
しれない。


映画を見終わって考えると、司法試験に合格した人たちが裁判官・検察・弁護士に分かれ、電車の中で
中学生のパンツを触ったか触らないか、という議論をしているわけである。
もっと他に裁くべき事件があるんじゃないかとも思うが、こういうことに知的リソースを割けることが
豊かさの証明なのかもしれない。


また、彼らの作文は日常の言葉とかけ離れており、こんな文章をいちいち朗読していると、普通の感覚は
失われるだろうなぁ、とも思った。
司法関係の独特の悪文は、ふだんはほとんど目に触れないから専門家にしか分からないものになっている
けれど、あんまり批判する人を見たことがない。日垣隆ぐらいか? 


物語自体は面白いものではないけれど、ディティールに凝っているのでダレるところが一切なく楽しめた。
学校では教えてくれないから、高校生ぐらいが見るといいんじゃないかと思う。
もちろん、社会人も。


本文と写真はまったく関係ありません

从*^ー^)<痴漢どもには、こう言ってやりたいですよ?