バンパイヤ

バンパイヤ(1) (手塚治虫漫画全集)

バンパイヤ(1) (手塚治虫漫画全集)

人狼の話かと思いきや、もっと広義の「何かの刺激で動物に変身するヒト」たちが、世界の秩序を破壊
しようとする物語である。


しかし、最初の方はあまり面白くない。
手塚治虫本人のところに、主人公のトッペイがやってくるあたりは、なんだか楽屋落ちのような感じが
する。
大きく話が動き出すのは、ロック(間久部緑郎)が登場してからだ。


間久部緑郎というキャラクターは、その名のとおりシェークスピアの悲劇「マクベス」からきている。
荒地の魔女たちにそそのかされ悪事を働くところや、自分が殺した人間の亡霊におびえるところなどは
そっくりそのままマンガにも描かれている。


もともと手塚マンガでは善玉の探偵を演じることが多かったようだが、「バンパイヤ」での二面性のある
キャラクターで生き生きしたキャラになったと思う。
表向きはこのような好青年なのだが、

実は誘拐や殺人を平気で実行できる裏の顔を持っている。
その二面性が現れる場面がこれだ。

一番下の段の真ん中のコマに注目してほしい。
悪い顔をしているのが分かるだろうか? 
手塚治虫は、この表情が気に入ったらしく、後になってもう一度使っている。

悪魔的といってもいい顔だ。


間久部緑郎は自分を疑う刑事を殺し、高性能の丸薬型爆弾の設計図を手に入れる。
そして、バンパイヤたちを使って政府の要人に爆弾を飲み込ませ、次々に爆殺していく。
少年マンガなので、あまり現実味のないタッチになっているが、リアルに描けば爆弾テロである。


このとき、間久部緑郎は喜びのあまりミュージカルのように悪の賛歌を唄う。
作者もノリノリで描いているのがわかる。
このような悪の造形は、少年向けにマイルドになっているが、後の大人向けのマンガで真っ黒に
なって開放されることになる。


余談だが、「バンパイヤ」には間久部緑郎が唯一苦手な、西郷風介という友人が登場する。
このキャラクターは、寺田ヒロオのマンガに出てくるような、いかにも昔のバンカラ風な好漢で、
悪の道に進む間久部を止めようとする。


いわば、間久部緑郎の良心にあたる部分が、別のキャラクターになって出てきているのだが、
最終的に間久部は西郷を殺す。
こういうのがちゃんと描けるところが、手塚治虫のすごいところだと思う。


さて、手塚マンガでは、世界を一度リセットする欲望が様々な作品で見られる。
「バンパイヤ」の一年後に描かれた「火の鳥 未来編」や「地球を呑む」などは人類の文明が滅んで
いるし、それ以前に描かれた「0マン」も同様に人類は滅ぶ。


恐らく、戦争や差別がなくならないことへの作者の憤りによるものだと思うが、その一方で何もかも
リセットする快感もあったのだろう。
私は大友克洋の「AKIRA」で、ビルが破壊されていく場面に何ページも費やしている部分にも、その
ような欲望が見える。


結局、バンパイヤたちによる人類のリセットは失敗して、物語は尻切れトンボみたいな感じで終わる。
もともと主人公だった狼少年のトッペイが活躍せず、悪のプリンスたる間久部緑郎に話の重点がいって
しまったからだろう。


人類と人であって人でないものが戦うタイプのマンガで、今後も評価が覆ることはない最高傑作と
いえば、みなさんご存知、永井豪の「デビルマン」であろう。
「バンパイヤ」を読み比べてみるのも面白いかもしれない。


本文と写真はまったく関係ありません

从*・ 。.・)<もう少しで小悪魔に変身するところだったの