1990年前後だったと思うが、友だちと西荻の「博華」という中華料理屋で焼きそばを食っていた。
すると、我々が座っていたカウンターの端でビールを飲んでいたおじさんが声をかけてきた。
なんだか機嫌がよさそうだったので、適当に相槌をうっていたら、ちょっと飲みに行こう、と
誘われた。
私と友だちは顔を見合わせて、どうしようか、と相談したのだが、暇だし面白そうだからついて
行くことにした。
おじさんは、もう店の名前は忘れてしまったが、西荻駅の北にある小さなキャバレー(?)に
連れて行ってくれた。
こんなとこに入ったのは初めてだったので、おろおろしていると、横にお姐さんが座って
水割りか何かを作ってくれた。
店が暗くてハッキリと分からなかったのだが、お姐さんたちもけっこうな歳である。
おじさんは行きつけの店らしいので、1人で盛り上がって酒を飲んでいた。
勘定も心配だし、こんなところにずっといるわけにはいかん、と思っておじさんに別れを
告げると、もうちょっと飲んでけ、と言う。
いやいや、そういうわけにはいかんのだ、と固辞して帰ろうとすると、おじさんは我々に
名刺を渡してくれた。
その名刺によると、おじさんは西荻駅前サウナの社長だそうだ。
当時、私は風呂なしの部屋に住んでいたので、銭湯が閉まったときに何度か利用したことが
ある。
この名刺を出したら、いつでもタダにしてやる、とおじさんは豪語していたが、その後
一度も西荻駅前サウナには行かなかった。
あのおじさんは、いまも西荻駅前サウナの社長をやっているのだろうか。
ていうか、西荻北口には、まだサウナがあるのかしらん?
見知らぬ人に声をかけられ、別の店で酒を飲んだというのは、後にも先にもあれっきりだ。
いったい、あのおじさんはなぜ私たちに声をかけたのだろうか。