酒に弱いくせに、カクテルは好きなのだが、ロマンティックな思い出はひとつもない。
というのも、もっぱら家で適当に作っていたからだ。
私の友だちにカクテルに凝った奴がいて、ちゃんとシェイカーも買ってシャカシャカ振って
いたが、そのうち飽きてしまって焼酎派になってしまった。
たまたま英国に行ったとき、本屋で「サヴォイホテルのカクテルレシピ」という本を見つけ
たのでお土産に買ってかえったのだが、もらった本人は忘れているだろう。
シンガポール・スリングという有名なカクテルがある。
これはシンガポールのラッフルズホテルでレシピができたもので、私は現地に行ったとき
そこのバーで本物のシンガポール・スリングを飲むのを楽しみにしていた。
いざ、ラッフルズホテルについてパーに行ってみると、なんか想像したのと違う。
静かな雰囲気で、バーテンのシェイカーと静かな会話のノイズだけが聴こえるのかと思って
いたが、大音量でランバダがかかっており、大声で笑うオッサンの声がこだましていた。
居酒屋じゃんか、と思ったのだが、とりあえず座ってシンガポール・スリングを注文した。
店員は、またかよ、という顔でオーダーを受けた。
待望のシンガポール・スリングは、オシャレなものとは程遠く、グラスも野暮で飾りも下品
だった。ホテルを間違えたのかと思った。
腹が立ったので、味も憶えていない。
そういうことがあったので、外で飲むよりも家で飲む方がいいのではないかと思い、いろいろと
カクテルを開発してみたことがある。
開発といっても、ただ市販の炭酸飲料にジンやウォッカを混ぜるだけなのだが‥‥
例えば、カンパリに三ツ矢サイダーを注ぐと、けっこういける。甘味が足されるので、女性
にも飲みやすいかもしれない。
オルメカというテキーラにCCレモンを注ぐと、これまたいける。テキーラに酸味がマッチ
するのだろうか。友だちにも好評だった。
ただ、炭酸飲料はどうしても砂糖が入っているので甘くなる。
男テイストではないので、甘いのが嫌いな人はただの炭酸水で割るのがよろしかろう。
ジンやウォッカはたいていのものに合い、カクテルのベースになる酒なので、一本買ってきて
好みのもので割ると缶チューハイよりおいしいと思う。
不思議なことに、私はウィスキーやバーボンは身体に合わず、すぐに吐いてしまう。
しかし、お姐ちゃんのいる店で出してくれるものは、たいていウィスキーかバーボンの
水割りだ。みんな、そんなにあれが旨いと思って飲んでいるわけではないと思うのだが‥‥
そんなわけで、今日も私はロンリコという安いダークラムをコーラで割って飲んでいるの
だった。これにライムを搾って入れると、キューバ・リブレという名前のカクテルになる。
レモンフレーバーのコーラだと、そういう手間がはぶけてうれしい。