弁護士 灰島秀樹

踊る大捜査線」からのスピンオフ・ドラマだそうで、これは「木島丈一郎」と同じく
映画にはならなかった。
八嶋智人は最高の演技を見せていたのだが、スターではないということか。


千葉県で開催が計画されている海洋博をめぐって、中止を求める地元の人間が訴訟を起こす。
実はその土地は、ある企業がテーマパークを建てようとしていた場所で、海洋博が中止に
なるのを願っていた。
灰島は企業のオーナーから秘密裏に依頼を受け、海洋博を中止するよう地元の人間の味方の
ふりをするのだが‥‥という話だ。


君塚良一の脚本には、ふたつの悪意がある。悪意というのが不適当なら、嫌悪感と言っても
いい。
ひとつは弁護士というものに対して、もうひとつはオタクに対して、である。


恐らく、取材をしていていろんな弁護士に会った君塚良一は、こいつらまともじゃねーな、と
思ったのだろう。「三百代言」という言葉があるように、弁護士は依頼人によって主張を変える
のが当たり前である。
また、ドラマで戯画化されているように、非常に小児的な性格の人間が多かったのかもしれない。


そのような人間に「正しいこと」はできるのかどうか、ということを君塚良一は問いたかったの
ではなかろうか。
というのも、「踊る大捜査線」シリーズで主役になったキャラクターの中で、この灰島弁護士
だけは「正義の人」ではないからである。


ドラマでは、灰島が、国と地元住民がともに妥協できる提案をして決着がつくのだが、彼は
自分の正義を貫いたわけではなく、単にゲームに勝ちたかっただけのように見えた。
そして、灰島を裏切って事務所を抜けた弁護士たちが再び戻ってきて、何事もなかったように
仕事を始める場面でドラマは終わっている。
これが、非常に気持ち悪かった。全員の感情が欠落しているような気がした。


だから、灰島の過去よりも、吹越満が演じる篠田弁護士との関係の方がずっと興味がある。
そもそも、あの連中はどうやって知り合いになって、いつ事務所を立ち上げたのか、とか。
なんで企業法務をやらずに民事の弁護士になったのか、とかね。


さて、もうひとつの嫌悪感は、オタクに向けられたものだった。
これは灰島弁護士に限らず、長井秀和が演じるIT企業の社長に対してもだが、「こういう
奴らが世の中を引っ掻き回していいわけ?」という大人の苛立ちのようなものが伝わる。


さらに、唐突に現れた真矢みき演じる沖田管理官が、疲れ果てたように「アキバはよく
分からない」と言う。
まともな大人はオタクの気持ちが分からない、ということだろう。


それは、同じく君塚良一が脚本を書いた傑作ドラマ「TEAM」でも同様で、主人公の文科省
役人を演じる草磲剛はオタクという設定だったが、年長者から見ると有能だけど普段なにを
考えているのかさっぱり分からない若者、という描き方だった。
有体に言えば、君塚良一にはオタクに対する興味はあるが、愛はないのである。


内田樹は、「踊る大捜査線」の青島は私生活が見えない。あのキャラクターは、植木等のサラ
リーマン映画の正当な後継者なのである、と看破していた。
そういえば、ほとんどのキャラクターは、どんな部屋に住んでいるか、謎である。


ちなみに、灰島弁護士がリアルに権力を持ったら、金正日になると思うのだがどうだろうか? 
そんなに有能ではないかw


本文と写真はまったく関係ありません

( ^▽^)<じゃあ、あなた死刑ね♡