休憩と宿泊

むかしむかし、まだ私が純粋な小学生だったころの話。
近所に道後公園という、わりと大きい公園があって、よく遊びに行っていた。
園内にはゴーカートコースがあって、何回か運転したことがあった。


その公園の近所に、かなり古い連れ込み旅館があった。
連れ込み旅館というのは、和風のラブホテルのようなもので、井上章一

愛の空間 (角川選書)

愛の空間 (角川選書)

に、詳しい成立状況が書かれてある。
面白いので、興味のある方は是非ご一読を。


小学生の私は、その連れ込み旅館の横を通るたびに、看板が気になっていた。
そこには、<御休憩 3000円 御宿泊 5000円>と書かれてあった。
値段は正確ではないと思うのだが、そのくらいだったと記憶している。


そこがセックスのための場所だということを全く理解していなかったので、
なぜ<御休憩>する必要があるのか、意味が分からなかった。
というより、<御休憩>と<御宿泊>の区別がつかなかったのである。


だいたい、一休みするだけで 3000円も払うなんてバカらしいじゃないか。
どうせ休むんだったら、ちゃんと一泊した方がいいに決まってる。値段も
2000円しか違わないんだったら、普通は<御宿泊>を選ぶだろう、と子供なりに
考えていた。


ある日、家族で道後温泉に行くとき、道後公園の横を通っていたら、その
連れ込み旅館の看板が点灯していた。
そこで私は家族に
「なんで休憩なんかするんやろうね、バカらしい」
と看板を指差して言ったのである。


両親は無言で、すたすたと先を歩いていってしまった。
兄はもう中学生だったので、意味は分かっていたと思うが、やはり私の
発言をスルーして行った。


全員に無視されて、たぶん私は機嫌が悪かったと思うが、その後のことは
まったく憶えていない。
それにしても、バカなことを言ったもんだ。恥ずかしい。


私が初めて<御休憩>したのは、それから15年以上後のことで、新宿の小さな
ラブホテルであった。
有線で ASKA の「はじまりはいつも雨」が流れており、外に出てみると本当に
雨が降っていたので、なんとなく鼻歌をうたってしまったのを憶えている。


松山で<御休憩・御宿泊>したことは一度もない。
虚しい。


本文と写真はまったく関係ありません

从*・ 。.・)<御休憩って、ほんとに休むんですかぁ?