千年女優

千年女優 [DVD]

千年女優 [DVD]

BSアニメ夜話でとりあげられているので、その前に録画しておいたビデオを見た。
こういう機会でもないと、なかなか見ようと思わないのだ。


で、見終わって、このアニメは外れた作品だな、と思った。
外れというのは、つまらないとか駄作という意味ではなく、スタンダードなものではない、
という意味だ。


1923年(関東大震災の年)生まれの女優が、少女期に出会った初恋の人を追い求め、その
回想をインタビューする、という物語だが、非常に分かりにくい構造になっている。


というのも、画面には現在の女優(老人)と過去の女優(少女〜中年)が登場し、それ
だけなら混乱はないのだが、劇中劇のように過去に演じた役柄でも回想されているため、
見ている人にとっては、どこまでが実際にあったことで、どこまでが映画の話なのか、
わけが分からなくなるのだ。


さらに、画面にはインタビュアーである中年男と助手も回想シーンに傍観者として出演し、
あろうことか中年男(女優の大ファン)は、劇中劇にも手を変え品を変え登場するので
ある。


その劇中劇だが、戦前から70年代までの日本映画のオマージュになっている。
あのシーンの元ネタはあの映画だろうな、というのが次から次へと描かれており、邦画好き
にはニヤニヤできる仕掛けだ。


それは、女優の造形も同様で、引退して鎌倉に住んでいる設定は原節子だし、ショートカット
のときは高峰秀子、中年のときは田中絹代‥‥というふうに、往年の名女優のイメージが
ふんだんに使われている。


音楽も独特で、BGM としてはちょいと引っかかる感じがする。エンドロールのときの曲も
戦前風の曲を電子楽器で編曲しているからだろうか、違和感があった。
そういう狙いだろうけど。


BSアニメ夜話でも触れられていたが、結局のところこの映画のキモは、女優の最後のセリフ
であろう。
「だって私、あの人(初恋の人)を追いかけている私が好きなんだもん」


なんじゃ、そりゃ? と思う人もいるだろうし、納得する人もいるだろう。
私は女が嫌いなので、ふざけんな、と思った。


というのも、彼女はいろいろピンチに遭っているのだが、ことごとく親切な(?)男に助け
られているのである。
が、そういう人たちは彼女にとって、単なる脇役にすぎず、自意識の中では助けられて
当然と思っている。
だから、回想シーンに自分が主演した映画が重なるのだろう。
つまり彼女は、唯我独尊なわけですよ。
(そういう人でないと主演女優にはなれないらしいのだが)


すると、彼女が追い求める「鍵の君」と呼ばれる画家も、女優を引き立てる素材にしか
すぎなかったのではないか。
何らかの化学反応を引き起こすために、自らは溶けてなくなってしまう物質だったのでは
なかろうか、とさえ思う。


クリエイター的に見れば、「鍵の君」というのは、まだ見ぬ自分の最高傑作の隠喩かも
しれないね。
永遠に手に入らないけれど、追い続けざるを得ないという意味で。