危うし! 小学校英語

危うし!小学校英語 (文春新書)

危うし!小学校英語 (文春新書)

中央教育審議会が、小学校で英語を必修にしようと提言したことに対する、大変説得力のある
反論が本書である。


まず、英語は幼児期から教えれば、上達が早いというのは根拠がない、と断言している。
私もそう思う。
というのも、学習塾で中学生を教えていたとき、小学校から英語塾に通っていた子と、中学で
初めて英語を習った子がいたが、成績は後者の子の方がよかった、という事例があるからだ。


つまり、学習の時期ではなく、本人の能力によるものが大きいのではないか、と考えられる。
英語に限らず、早期教育というものの有効性を、成人になるまで追跡調査して実証してほしい
のだが、誰か研究してませんか? 


また、帰国子女が英語を話すことについて、負の側面を見ずにうらやましがっている親たちも
どうかと思う。
二種類以上の言語を話すということは、パソコンで例えるとOSを二種類以上入れる、という
ことだろう。
確かに便利かもしれないが、演算速度やメモリーが貧弱だと、しょっちゅうフリーズして使い
ものにならない場合もある、ということだ。
それよりは、ひとつのOSをきちんとインストールすることが大事ではなかろうか。


それから、英語を話すことと仕事ができることは別だ、ということもきちんと考えなければ
ならない。
私が勤めていた業界新聞社に翻訳セクションがあり、我々が日本語で書いた記事を英文版
に掲載していた。
翻訳する人は英語に関するエキスパートであったが、中には常識がないというか、ダメだこりゃ、
という人もいた。
そうか、英語ができるバカもいるんだ、と思ったものだ(もちろん、語学が堪能で仕事もできる
人だって山ほどいるだろうけど)。


だから英語を勉強するのは何の意味もない、というわけではない。
外国語を学ぶことで得られるメリットは大きいのだから、きちんと努力すべきだと思う。
よく「中高大と英語を教わったけど、喋れるようにならなかった」と言っている人がいるが、
それはあなたの頭が悪いか努力が足りないからだ、とハッキリ指摘しなければならない。


ゆとり教育のせいか、中学校の英語の教科書はスカスカである。
英単語の量は、20年前の教科書に比べて三分の二ぐらいになっているのではなかろうか。
曜日や東西南北を英語で書けない子は、当たり前のようにいる。
しかも、会話重視の授業を学校でやっているから、単語を憶えなくても平気そうだ。
後で苦労するのに。


「語学ができる=頭がいい」という信仰は、恐らく明治維新のころに生まれたのだろう。
21世紀になってもその呪縛は続いているのではないか。
中味が空っぽな人間が英語を話したとしても、せいぜい旅行や日常会話で役に立つ程度か。
それで十分かもしれないが。


なお、この本もあわせて読むといいと思う。

英語を学べばバカになる グローバル思考という妄想 (光文社新書)

英語を学べばバカになる グローバル思考という妄想 (光文社新書)