幸運の女神と前髪

学生のとき、少年サンデーの編集補助のバイトをしたことがある。
たまたま、学生課のアルバイト斡旋掲示板を見ていたら、小学館から求人があり、
応募したら受かった。ラッキーだった。


で、約一年間、少年サンデーの読者投稿ページのハガキ整理や、ポイント計算を
した。非常に楽な仕事で、週給6000円ぐらいだったと思う。
ときに校了の関係で、作業が深夜になることもあったが、タクシーチケットを
渡してもらった。
バブル期とはいえ、なんて贅沢だったんだろう‥‥


このとき一緒にバイトしていた女の子が、宮崎美子似の可愛い子だったのだが、
何回か飯を食っただけで終わってしまった。
いま思うと、神様はたくさんのチャンスを与えてくれていたのだが、私はすべて
投げ捨てていたのだ。
あのときの自分を殴ってやりたい。


小学館の方針で、バイト契約の更新はできないそうなので、楽しい仕事も一年で
終わった。
しかし、マンガの編集の仕事は面白そうだったので、就職活動は出版社に絞った。
もちろん、小学館も受けた。


ちょうど面接の日は台風が来ていて、神保町でも風が吹き荒れていた。
このとき、京都の友だちも一緒に面接を受けに来ていた。
小学館のビルの中に入り、学生が待機する場所に座って緊張していたら、その
友だちはトイレに行った。


面接の時間が近づいたのに、友だちはまだ戻ってこない。
あいつ何してるんだろう、と心配になりつつも、うかつにウロチョロするわけ
にもいかず、じっと待っていた。
すると、ちょっと涙目になった友だちが帰ってきた。


「どうした?」と私。
「前髪を切った」
なんでまた?


友だち曰く、
風で髪が乱れたので、トイレで櫛を使っていると、前髪のところでからまって
どうやっても外れなくなった。
引っ張ると髪の毛がブツブツ抜けたが、櫛はとれない。
持っていたカバンの中には、エントリーシートに貼る写真を切るためのハサミが
あった。もう、面接の時間が迫っており、背に腹は変えられず、櫛にからまって
いる部分をジョキリと切った‥‥
と。


なるほど、確かに前髪に妙な段差がついている。
が、よく見ないと分からないし、それほど面接に影響しないだろう、と慰めた。
本人に私の言葉は届かなかったようだが。


もちろん、二人とも次のステージに進むことはなかった。
友だちはその後、映画会社に受かり、幸せな家庭を築いている。
私は、編集プロダクションに引っかかったものの、今は都落ちしてしまった。


【教訓】
幸運の女神は前髪しかないが、前髪を切った奴には微笑むことがある。