火の鳥 未来編

火の鳥 2(未来編) (朝日ソノラマコミックス)

火の鳥 2(未来編) (朝日ソノラマコミックス)

手塚治虫の「火の鳥」シリーズは、友だちの家にあったA4版の朝日ソノラマから
出ていた紙質の悪い本で初めて読んだ。中学生のときだったろうか? 


私は藤子不二雄チルドレンだったので、手塚治虫は一世代上のマンガ家だったが、
藤子不二雄の師匠格でもあり、何よりすでにその名声は子供にすらとどろいていた
ので、いくぶん及び腰で手にとって記憶がある。


しかし、当たり前だが、読んでみると面白くて、なるほど“マンガの神様”と
呼ばれるだけあるなぁ、と感心した。


不思議なことに、たいていのマンガは一度読んだら憶えているのだが、手塚治虫
作品はあまり記憶に残らない。
内容が濃いせいだろうか。
ちょうどクラシック音楽を聴いたとき、だいたいの響きは残るのだが、完全な
ディティールは脳内で再現できないのと同じなのかもしれない。
そこが、キャッチーなポピュラー音楽のような、他のマンガ家の作品と違う点だと
思われる。(どちらが質的に上か、という話ではない)


さて、この「火の鳥 未来編」は、古本屋で105円で売っていたB6版のものを
懐かしくて買ってみたのだが、やはり面白かった。
何度も読んでいるにもかかわらず、新しい発見があるのは、やはり古典と呼ぶべき
名作だからだろう。


人類は巨大なマザーコンピューターに管理された地下都市で生活しており、別の
地下都市との戦争で、ほぼ全滅してしまう、というストーリーだ。
冷戦だった時代の作品なので、米国とソ連の全面核戦争をイメージしているのだ
ろう。
分散型ネットワーク社会の、グローバル化した社会に住む現在、上記のような設定は
いささか古臭く感じる。


だが、ムーピーという生物の設定は、さすがに天才だなぁと思わざるを得ない。
ムーピーは不定形生物で、飼い主の望む姿に形を変えられる。
そして、一種の催眠術のような力で、どんな夢でも見させてくれる。
二次元に引きこもるオタクを予言した設定ではなかろうか。


手塚治虫は、容貌が醜いためにモテない男が、自分の理想の女性を作る話をよく
描いている。この「火の鳥 未来編」でも、猿田博士はそのようなロボットを
作り、結局は絶望していた。
その後、主人公のマサトも同様に女性ロボットを作っては壊している。
古くはギリシャ神話のピュグマリオンからあるモチーフであるが、最近だと
からくりサーカス」が正当な系統作品になるだろう。


物語では、ムーピーは退廃的だということで、一匹残らず処分されそうになるが、
いまの日本だとどうなるだろうか。
私はものすごく欲しいのだが‥‥


もうひとつ、改めてすごいと思ったのは、時間や空間のスケールがでかいことだ。
火の鳥 未来編」では、平気で30億年が過ぎていく。
ナメクジが進化して絶滅するまでの部分は、グロテスクでよかったなぁ。


こうした、いわゆる“神の視点”から語られるストーリーを子供のときに読めた
のは、とてもラッキーだったと思う。
一種の宗教的体験のようなものなのだろうか。