蝉しぐれ

ネタバレします(←誰も読んでないだろうけど、一応)


映画の出来としては普通だった。
やはり、あの長編小説を2時間ぐらいにまとめようとすると、どうしても微妙なタッチが
抜け落ちてしまう。
とはいえ、美しい風景は見事に架空の海坂藩を再現していたし、全体的に丁寧なつくりは
素晴らしいと思う。


この映画は、前半が主人公・牧文四郎の少年期、後半が青年期になっているが、私が感心
したのは少年期の方だった。後半になるとダレる。
なぜかというと、前半では文四郎の隣の家の娘・ふくを佐津川愛美が演じているからだ。


台詞はほとんどないのだが、川で洗濯をしているとき、蛇に指を咬まれたシーンはもち
ろん、夏祭りで文四郎の着物の裾をそっと握るしぐさや、文四郎の父の死体を載せた
大八車を後ろから押すときの芯の強さ、江戸詰めになる前に文四郎に会いに行く
ときのひたむきさを好演しており、これらが最後の回想になって生きてくるのである。


この子は、テレビドラマ「がんばっていきまっしょい」にもレギュラー出演していたが、
本当に田舎の娘役が似合う。六本木ヒルズでバリバリ働くキャリアウーマンの役は絶対に
来ないだろう(それは失礼か)。
ともかく、個人的には、彼女がこの映画でいちばん光っていたのではないかと思う。
新人賞をあげたいくらいだ。たぶん取るだろうけど。


これが成長して大人になると、木村佳乃になってしまう。
確かに美人だが、どうも佐津川愛美とリンクしない。
じゃあ、誰ならいいのかというと思い浮かばないのだけど‥‥。
(若いときの風吹ジュンか?)


ミスキャストなのは、木村佳乃ばかりではない。
ふかわりょう今田耕司は明らかに入れ替えるべきだろう。
今田の顔は秀才顔ではない。まだ、ふかわの方が学問ができそうに見える。
どうしてこうなったのか、謎だ。


とはいえ、バランスをとるために慌てて褒めると、ベテラン俳優たちはさすがに上手くて、
安心して見ていられた。
特に緒形拳が息子と最後の対面をして去るときの演技、あれは素晴らしかった。


というわけで、10月になってもまだツクツクボーシが鳴いている暑い日に見た映画の
感想でした。