宇宙戦争

今日は映画が1000円の日だったので、スピルバーグの「宇宙戦争」を見てきた。
実は、予告編を見てもちっとも面白そうじゃなかったし、公開後の評判を見聞き
しても、やはり面白くないということだったので、ためらっていたのだ。


しかし、この作品はスピルバーグ久々の傑作だと思う。
もう公開されてずいぶん経っているので、今さらネタバレを気遣う必要もなかろう。


この映画は「離婚したオヤジに会いに来た娘が、母のところへ帰る途中で見た
悪夢」である。
もう、エイリアンとか地球防衛とかは悪夢の設定にすぎない。
スピルバーグ
「怖いっしょ? ね、すっげー怖いっしょ?」
とSごころを炸裂させているのである(そういや、彼のイニシャルはS・Sである)。


少女の悪夢なので、物語の整合性はあまりない。
なぜトム・クルーズはひたすらボストンを目指さねばならないのか、とか
兄はどういう経緯で無事だったのか、とか突っ込むところはいろいろあるの
だが、関係ないのだ。
(だいたいエイリアンが、なんで細菌の研究もせずに地球に乗り込んで、現地の
水を飲んだりするかね? あれほどの科学力があるのに)


例えば、少女役のダコタ・ファニングが用を足しに川岸に行ったときに、
上流から死体がたくさん流れてくる。トラウマになるよね。
こういうシーンは、もうスピルバーグがヒヒヒと笑いながら挿入しているに
違いない。
父親役のトム・クルーズが何度も少女に目隠しをするのも、悪夢を見せまいと
しているからだ。


だから「インディペンデンス・デイ」みたいな映画を期待した観客は、たぶん
つまらないと思うだろう。ああいう爽快感がある作品ではない。
その意味で予告編の作り方は間違っている。エイリアンVSトム・クルーズ
映画ではないのだ。


もう一点、触れておきたいのは、エイリアンの乗り物トライポッドの造形だ。
これは素晴らしいフォルムをしている。
触手のディティールはイマイチだったが、全体のシルエットがいいのだ。
特に、フェリー乗り場で後ろを振り返ると、山すそに現れるトライポッドの
シーンがあるのだが、このレイアウトが日本の優れた特撮を思わせる。
やたらとカッコいいのである。


最初に街中に出てきたトライポッドもいい。
人間とトライポッドが、しばらく
「‥‥‥‥」
とにらみ合う。
やおら、トライポッドから人間を瞬時に粉塵にしてしまう光線が出る。
この、なんともいえない間にゾクゾクする。
トライポッドが発する低音のズーンという音響もゴジラを連想させて最高だ。


思えば、スピルバーグはテレビ作品の「激突」から、正体不明の悪意に追われる
人間を執拗に描いていた。
ジョーズ」や「ジュラシック・パーク」も、同工異曲の作品である。
まさに、原点回帰といえる傑作ではなかろうか?