*[本]日本中世への招待

日本中世への招待 (朝日新書)

日本中世への招待 (朝日新書)

日本の中世は平安時代末期から戦国時代までを言うそうだが、
その当時の人々の生活がどんなものだったのかを平明に書き表して
いるのが本書である。たいへん面白かった。
高校生の副読本にしても良いのではないか。


豊富に文献史料が残っている貴族や武士はもちろん、あまり史料が
残されていない庶民の日常もできるかぎりすくい取っているのが
うれしい。
付録のブックガイドもあって至れり尽くせりである。


本書の帯に「庶民と酒を酌み交わす殿様もいた!」とあるのは、
薩摩の島津家久が鹿児島から京都・伊勢に旅行した道中記の
「家久君上京日記」に書かれた出来事である。


このなかで、伊勢神宮に参詣するとき、川で衣服を脱いで身を清めて
いると、それを目当てに乞食がやってきて物をとられてしまった、
というエピソードがある。
安芸国から来た人は、その乞食と服を引っ張り合って裸相撲のよう
だった、と書いてあったそうだ。

 余談だが、私は大学3年生の時、『家久君上京日記』を輪読するゼミに
参加していた。ちょうど「裸相撲」の箇所を担当した。原文は「安芸国
人妻子を引くし(引き具し)参詣」となっている。もちろん「安芸国の人、
妻子を……」と読むのが正しいのだが、その時の私は「安芸国の人妻、子を……」
と読んでしまった。ゼミが爆笑の渦に包まれたのは言うまでもない。
この読み方だと、人妻が裸相撲をしたことになってしまうので、ますます
よろしくない。おかげで私はしばらく「人妻好きの呉座」というあらぬ
噂を立てられることになった。以後、読点のつけ間違いには注意している。
(p201)

ここが面白かったのだが、歴史学者は古文や漢文(といっても日本人が
書いたもの)を大量に読まなければならないのだなぁ、と思った。
しかも、ほとんどは散文だろう。


一方、高校で習う古文や漢文は文学的なもので、詩文が多い。
そういうものは歴史学者ではなく文学者の方が得意なのだろう。
付録のブックガイドで、文学的な史料を活用した五味文彦の著書が
紹介されているので、ちょっと読んでみたくなった。