夕凪の街 桜の国

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)

ちょっと泣きそうになった映画だった。私が泣きそうになるくらいだから、本当に涙を流す人も
多かったのではなかろうか。
原作のマンガは1年ぐらい前に買っており、映画を見終わった後で改めて読んで、さらにしみじみ
した。


この作品は原作どおり二部構成になっており、後半はさらに回想シーンが組み込まれた少し複雑
な時系列になっている。
しかし、よくこなれたシナリオで分かりやすく表現しており、原作のマンガのテイストを損なう
ことなく映画化に成功している。


私は前半のパートが好きで、特に主人公役の麻生久美子が抜群の出来だったと思う。
彼女は「時効警察」でとぼけた演技をしているが、こういうシリアスな作品もきちんとこなせる
んだなぁ、と評価が上がった。


マンガの描線は、西岸良平を思わせる柔らかい線で表現されており、映画での麻生久美子のふわ
りとした雰囲気がとても合っていた。
マジ演技でぐいぐい押してくるタイプの女優ではなく、どこか外した感じの、捉えどころのない
芝居が魅力的で、そのぶん最後の悲劇を味わい深くしていたと思う。
(個人的には寝巻き姿が可愛かった。あと、京ちゃん役の小池里奈も)


彼女は死ぬ間際に、「原爆は落ちたのではなく、落とされたのだ」とハッキリ語っている。
私はこの台詞にドキッとした。


日本は戦争でよその国にひどいことをした、という加害者意識と、空襲や原爆で無差別に非戦闘
員を虐殺された、という被害者意識は、わざとかどうか分からないが、しばしば混同されてきた。
でも、ここではきちんと被害者の言葉を伝えようとしている。
私から見たら発狂しているとしか思えない米国のメンタリティを、鋭く告発しているように思えた。


後半のパートでは、時代が現代になって主人公も田中麗奈に変わる。彼女もがんばっていたが、
私は中越典子の方がよかったと思う。
納得いかなかったのは、堺正章田山涼成のキャスティングだ。
特に田山涼成の老け役は、失笑が漏れるほど違和感があった。生きていれば、田村高廣がやる役
だっただろう。
むしろ堺正章の役こそ、田山涼成がやればよかったんじゃないかと。


私は浪人していたとき、広島に一年ほど住んだことがあったので、映画の中の広島弁がとても懐
かしかった。普通に原爆ドームがある街で生活している人々は、とてもたくましかったことを憶
えている。


本文と写真はまったく関係ありません

日付は去年のものです