以前にやっていたという「働くおっさん人形」はネットされてなかったので見てないのだが、
今回の放送で大体の雰囲気は分かった。
要するに、50代から60代の素人のおっさんをいじって笑う、という番組である。
素人をいじって笑いにするスタイルを完成させたのは、おそらく萩本欽一である。
それ以降、明石家さんまの「ご長寿早押しクイズ」などのバラエティ番組で、繰り返し用いられる
手法だ。
ダウンタウンも「ごっつええ感じ」のオジンガーとか、最近だと「リンカーン」のおかんとデート
シリーズの企画で素人を使っている。
だから、その手法自体は別に新しいものでもなければ、悪いものでもないのだが、見る者の立場に
よっては笑えない場合もあるのではないかと思う。
「働くおっさん劇場」に登場する素人は、全員が揃いもそろってどうしようもない男である。
私が見た回では、大学をリストラされた女装好きの男と、妻の借金のせいで離婚したタクシー
運転手の男が紹介されていた。
どちらも、もう明日がないような人たちである。
松本は彼らに質問して、そのどうしようもなさを笑いにしている。
ほとんどの視聴者は、松本と同じ視点で笑えるのだろう。
しかし、私は逆に、質問される男の立場で見てしまうのだ。
というのも、私も何十年かすれば、確実にどうしようもない初老の男になるからである。
さっきから「どうしようもない」と書いているが、細かく言うと、妻や子供がおらず、安定した
職業にも就けず、したがって貧乏でほとんど希望がない、という状態のことだ。
彼らを笑えるのは、絶対に自分はそうならないと確信している人だけである。
で、当たり前だがそういう人の方が多い。
だから番組として、ちゃんと成立しているのだと思う。
そもそも、どうしようもなくなったのは本人が悪いからだろう。
松本は、前作「働くおっさん人形」を“ただのAV”と称していたらしい。
なるほど、これはアダルトビデオと同じ構造をしている。
私は一度もAVに出演する女性を、わが身に置き換えて考えることはなかった。
反省しなければならない。
しかし、アダルトビデオと違って、「働くおっさん」に出演している男たちはギャラも大して
出ないだろうし、人生をリセットできる時間も残されていない。
何という残酷なことをしているのだろう、と思うけれど、笑いというのは根本にそういう残酷さを
はらんでいるのだから、この番組も是としなければならないのだと思う。