- 作者: 井上章一
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2003/08
- メディア: 文庫
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井上章一といえば、私にとっては「美人論 (朝日文芸文庫)」なのだが、彼の後に続く人が
いないのが残念だ。
こういう柔らかいテーマで面白いことを書くインテリが増えてくれたらいいのだが。
何度目かの新書ブームみたいだから、編集者はがんばってほしい。
この「関西人の正体」は、関西に対するいわれのない偏見に対して、ちょっと
違うんやけどなぁ‥‥とボヤいている本である。
そう、まさに往年の人生幸朗師匠のようなボヤき漫談なのだ(と言っても若い人には
伝わらないと思うが‥‥)。
関東の人が抱く、関西のイメージというと、阪神タイガース・たこ焼き・ヤクザ・
お笑い芸人、といったものだろうか。
特に間違ってはいないけれど、関西人がみんな漫才師なわけではないし、巨人ファン
だってたくさんいる。
かつては、こうしたステレオタイプなイメージに対する反発もあったのだろうが、
最近はその元気もないようである、と作者はいう。
原因は東京への一極集中のせいである、と。
私が妙だなと思ったのは、東京の人が関西弁を変にマネし始めた頃だった。
間違ったイントネーションで「なんでやねん」と言ったりしていたのを憶えている。
たぶん95〜96年ぐらいだったと思うが、明らかに関西が消費され始めた時期だった。
消費という言い方は適切でないかもしれないが、珍しいものをちょっとつまんでみて、
飽きたら捨てる、という接し方と考えていただければいい。
つまり、東京の人から見て、関西が怖い場所ではなく、面白いことを言う地方に
なった時期が90年代半ばだったのではないか、と思うのだ。
そのきっかけのひとつはダウンタウンだったのではないか。
Wikipedia の“日本お笑い史”を見つつ考えるに、関西の芸人が大量にメディアに
露出したのは、1980年前後の漫才ブームである。
このときの生き残りが「オレたちひょうきん族」をつくって、裏番組の「8時だヨ!
全員集合」を終わらせている。
しかし、この番組の中心はビートたけしと明石家さんま・島田紳助であり、吉本の
芸人はどちらかというと、エキセントリックな存在だったと思う。
しかも、明石家さんまの関西弁は、わざと古い言い方を使っており、実際の関西人
が使うようなものではない。
その後、とんねるずの時代が来て、ウンナンとダウンタウンが後を襲う。
ウンナンは九州と四国の人間のコンビだが、話し言葉は標準語だった。
ダウンタウンの人気と相まって、関西弁がちょっと格好よく見えたのではないかと
思うがどうだろうか?
Wikipedia の区分では、その後の第四世代以降の状況が書かれているが、時代を
劃した芸人は現れていない。
関西弁も、当たり前のようにテレビで使われており、いまや関東の人も日常会話で
ボケたり突っ込んだりしている。
私は、笑いというカテゴリーでは、関西が圧勝したのではないかと思う。
それは、関西弁を使った笑いということではなく、受けるためのフォーマットが
吉本チックになった、という意味だ。OSが吉本になった、と言う方が分かり
やすいかな。
だから、関西は没落することで首都圏と対抗できる、という井上の主張は、少なく
とも笑いに関しては違うんじゃないかと私は思う。
それに、関西はまだマシである。
「九州人の正体」や「東北人の正体」という体裁の本なら、まだ企画段階で一応
検討されるかもしれないが、四国は「四国人」なんて言葉すらないのだから。