やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。10.5

巻数に .5がついているので、特に大きい出来事はないと予想して
読んだ。その予想どおり、フリーペーパーを作るだけの話だった。
だが面白い。


基本的に主人公とヒロインたちだけで展開されるのに、最後まで
ちゃんと読ませるのは、キャラがしっかりしているのと、構成力が
あるからだろう。


ただ、奉仕部全員で初めて自分たちの写真を撮った場面があって、
それを描写する言葉がビターエンドを予感させる。
.5巻は息抜きステージではあるが、11巻への布石は打っている
ようだ。


主人公は、高校2年の冬にいるのだが、ときおり大学を卒業して
働くようになってからの視点が混じっているような気がする。
もちろん、それは作者の視点でもあるのだが、青春は永遠では
ないという、当事者はあまり気が付かないことに気が付いて
しまっているあたりが、今どきの世代なのかな、とも思う。


世代といえば、平塚先生が藁半紙とガリ版と言ったとき、生徒たちが
理解できなかったのが面白かった。
でも、実際に何歳くらいまで藁半紙とガリ版を現実に知っているの
だろうか。
私は鉄筆でガリ版を切ったことがあるのだが。



読売新聞主催で「SUGOI JAPAN」という企画があり、そのラノベ部門で
やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」が1位に選ばれた。


こういう投票ものは作品を正しく反映しないと思っているのだが、
1位になったのは素直にうれしい。


でも、ここまでビッグタイトルになってしまうと、作者のプレッシャーは
いかばかりか、とも思う。
それに、版元もさっさと完結されては商売上がったりだから、なるべく
引き延ばそうとするだろう。
(なので .5巻が出る)


作者はそのあたりの機微を分かっていると思うので、人気のあるうちに
できるだけ早く物語を終わらせようとするだろう。


ただ、「クズと金貨のクオリディア」を読む限り、渡航という作家が
全く違う作品を生み出せるかというと、不安が残る。


できれば大学生が就活で苦労するような話を読んでみたいのだが、
それを受け入れる媒体があるだろうか。
ラノベは主に中学・高校生が主人公なので、読者層から離れるような
気がする。


もしかしたら、少年マンガから青年マンガへとジャンルが成長して
いくように、中高生向けのラノベから大学生・社会人向けのラノベ
というものが生まれるのかもしれない。


私の根拠のない勘にすぎないが、渡航は大学生・社会人向けのラノベ
でこそ面白い作品が書けるのではないか、と思う。


そういう媒体を用意するのは、大手出版社の仕事だろう。