火車

火車 (新潮文庫)

火車 (新潮文庫)

去年の秋にドラマになっていたのを見て、もういちど原作を読んで
みようと10年ぶりに手にした。
再読してみると、ドラマは原作をわりと変更しており、なんで宮部
みゆきの作品は映像化されると余計なことをされるのか、不思議に
思う。


この小説は、カード破産がきっかけで他人の身分を乗っ取る女の正
体を、休職中の刑事が調べていく話である。
が、そもそもの発端は住宅ローンである。


宮部みゆきは「理由」で直木賞をとるが、やはり住宅ローンが破綻
して競売されたマンションをめぐる殺人の話だった。


今はどう思っているのか分からないが、当時の宮部みゆきは、マイ
ホームを買わせようと煽る人びとに怒りをいだいていたのだろう。
それは、主人公に失踪した婚約者探しを依頼する若い銀行員の描き
方でよく分かる。


本来は政府が主導して、賃貸住宅を充実させればいいのだが、現在
もまったくの無策である。
これから貧乏な人はどんどん増えるだろうから、住宅ローンどころ
ではなくなるのではないだろうか。


ただ、そういう人にもお金を貸して家を買わせたのが米国で起きた
サブプライムローン危機の原因である。
日本でも銀行がやらないとは限らない。
(そういえば、米国では「火車」のようにヤクザが借金の取り立てを
したりするのだろうか? 自己破産したらおしまい、というあっさ
りしたシステムになっているような気がする)


その意味では、「火車」は現在でも十分に読むに耐える上質のミステ
リ作品である。