クレオパトラの眼

私が中学生の頃の話である。
高校受験のため、夜中まで勉強していたのだが、いつも眠くなってしまう。
かといってコーヒーは苦くて嫌いだったし、何か起きられるようなアイテムはないものか、
と探していた。


すると、紀伊国屋書店の参考書売り場かどこかで「クレオパトラの眼」という食べ物を発見
した。
これを舐めると眠くならないのだそうだ。


その神秘的なデザインとネーミングに、中学生だった私はすっかりやられてしまった。
ちょっとばかり高かったが、小遣いからなんとかお金をひねり出して、その魔法のアイテムを
買った。


そして、夜中になって家族が寝静まるのを待ち、いよいよ「クレオパトラの眼」を食べてみ
た。どきどき。


‥‥なんやこれは。
ただのコーヒー味のキャンディーやないか。
しかも通常入っている糖分が抜かれており、ひたすら苦い。


しばらくはその苦味の刺激で起きていられたが、2時ぐらいになると机に突っ伏して寝てしま
った。悪いことに「クレオパトラの眼」を口に含んだまま。


ハッと気がつくと、ノートの上には大量のヨダレが広がっていた。
それがキャンディーの色がついて茶色い。


飴を口に入れたまま寝た人は分かると思うが、起きると口の中がガビガビである。
飴の成分で口の中がベットリとコーティングされている状態を想像していただきたい。
水分がすっかり奪われて、口からノドにかけてがカラカラだ。


何度も口をゆすぎ、歯磨きをしたものの、何ともいえない後味の悪さが残った。
そして、二度とあのようなインチキ商品を買うまい、と誓ったのだった。


いま思うと、なんでガムを噛んでおかなかったんだろう、と不思議だ。
まあ、私は何を食べていようが、眠いときには寝てしまうので、結果は同じだったと思う
けれど。


それにしても、なんで本屋にあんなものが売っていたんだろう? 一個600円ぐらいした
んだが。