蚤大発生

今から10年前、私はトラというネコを飼っていた。
97年の2月に西荻から三鷹に引越したのだが、トラは不安だったのか、私が寝ていると
足元に来て、丸くなって一緒に寝ていた。


当時の友人宛の電子メールを見ると、97年6月24日(火)になっている。
夜中に猛烈な痒みで目を覚ました。
両足のスネが、とにかく尋常でないほど痒いのだ。


パッと蛍光灯をつけて自分の脚を見ると、赤い斑点が無数にできている。
シーツを見ると、黒い何かがピーンと跳ねるのが見えた。
‥‥ノミ? 


あわててトラの毛皮をまさぐると、まあ、いるわいるわ。蚤が大発生しているでは
ないか。
ここから朝までの記憶がない。
たぶん、蚤を退治しているうちに眠くなってしまったのではなかろうか。
翌日は会社に行かなければならなかったし。


とにかく、ネコの身体を徹底的に洗って蚤を取り、週末にバルサンを焚いて、その間は
友だちの家に一泊させてもらうことにした。
トラは野宿だ。(←また蚤をもらってくるかもしれなかったが、そんなことを考える
余裕はなかった)


日曜日に帰宅して、布団やシーツを洗濯し、やれやれ、これで蚤も死んだだろうと
思っていたが甘かった。
しっかり生き残っていたのである。


月曜日、会社から帰宅して蛍光灯をつける。
すると、畳の上を
「ィヤッホゥーイ!」
と叫びながら、いや叫んではないけど、そんな風に、黒いゴマ粒みたいなのが何匹も
ピーンと跳躍していやがるのだ。


私はそのまま部屋を出て、泣きながら薬局へ走った。
そして、畳にブスッと刺す殺虫剤を買ってきて、目が痛くなるまで噴霧した。
トラはおびえて外へ逃げてしまった。


うちに帰って電気をつけたら、スーツ姿のまま畳にいる蚤を捕まえてプチッと
潰す。これに30分ぐらいかける。
その後、殺虫剤を撒く。
これを一週間ぐらい続けただろうか。
ようやく蚤が減ってきた。


日付を見ると、97年7月1日。
ちょうど香港が、英国から中国に返還された日だった。
私のスネについた蚤の咬んだ痕は、次の年の春まで消えなかった。
にゃー。



(こいつの身体じゅうに蚤が!)