居酒屋

居酒屋 [DVD]

居酒屋 [DVD]

私の「貧乏萌え」の原点である。原作はエミール・ゾラの小説。
手塚治虫は、フランス映画は60年代からつまらなくなった、と言っていたが、まさに
その通りだと思う(この映画は1956年製作)。


【あらすじ】

脚の不自由な女ジェルヴェーズが、パリで洗濯女として働き始め、心やさしい屋根職人クポーと
結婚する。そして念願だった自分の洗濯店を持って娘ナナも生まれる。
しかし、幸せなのはここまで。


ある日、クポーは屋根から落ちて脚を骨折する。入院中に酒を覚えてしまい、怪我が治っても
全く働かなくなってしまう。
ジェルヴェーズは必死に店を切り盛りするのだが、お客の洗濯物に致命的な失敗をしてしまい、
信用を失う。


ある日、錯乱したクポーによって店はメチャクチャに壊され、ついにジェルヴェーズの心は折れ、
彼女もまたアル中になってしまうのだった。
育児放棄された幼いナナは、やがてストリートチルドレンになっていく‥‥
(続きは「ナナ」という続編の小説で描かれる。ナナは舞台女優から高級娼婦になるのだった)

もう、あらすじを書いてて泣きそうになるのだが、この転落っぷりは「嫌われ松子」のルーツ
かもしれない。


名匠ルネ・クレマン監督は、この哀れな主人公ジェルヴェーズにマリア・シェルという女優を使い、
傑作に仕上げた。
恐らくルネ・クレマンは、マリア・シェルを見たとき、この人しかいない、と思ったのだろう。
そのくらい、幸薄そうな顔だった。


白黒映画だが、19世紀のパリの下町が(たぶん)リアルに描かれており、労働者たちの暮らしぶりが
よく分かる。食べ物もロクなものを食ってなさそうだ。


ただ、さすがフランス人だなぁ、と思ったところがある。
ジェルヴェーズとクポーの結婚式の後だったか、披露宴に招かれた街の人とルーヴル美術館に絵を
見に行くシーンである。
教養のない人々でも、なんとなく名画を見に行くもんなのかしら、と関心した。


不思議と記憶に残っているシーンもあって、当時の民間療法なのか、クポーの背中にロウソクで熱した
小さい瓶をいくつも貼り付け、お灸のように我慢する。
クポーは耐え切れずベッドから仰向けに落ち、瓶が割れて背中が血だらけになる、という場面だ。
なぜだか、ここをはっきり憶えている。ものすごく痛そうだったからか? 


ラストシーンでは、酒瓶を前に居酒屋で飲んだくれているジェルヴェーズを、あどけない顔で見ている
ナナが、通りで遊んでいる子供たちのところへ行ってしまう。
その後のナナを知っている人にとっては、思わずグッとくる終わり方である。


この作品で主演したマリア・シェルは、その後「カラマーゾフの兄弟」のグルーシェンカを演じ
たり、モーパッサンの「女の一生」の主演をしたりと、なぜだか文芸作品に縁がある女優だ。
その学級委員のような真面目そうな風貌と幸薄さがそうさせたのかも。


こうしたフランス人の猥雑さを知っていれば、過剰な期待を持ってパリに行っても絶望しないと
思うんだが、女性誌のパリのイメージって全然違いますな。
フランス人のイメージ戦略がすごいのか、日本人が勝手に憧れているだけなのか分からないけど。


本文と写真は全く関係ありません

リd*^ー^)<幸薄さでは負けませんよ?