モノマネ

私の特技はモノマネだ。
といっても、有名人とか芸能人ではなく、身近な人の声をまねる。
だから、まねされる人を知らないと、面白くもなんともない。


自分でも不思議なのだが、ある人の声ができそうだな、と思ってやってみると、ほぼ完璧に
再現することができる。ただし、まねできる人物は、自分では選べない。
ふっと(あ、この人の声はできるな)と、確認(?)できる瞬間があるのだ。
だから、練習はほとんどしたことがなく、急にやってみて人が驚くことがある。


最初は、10年前に一方的に絶交されてしまったMっさんだった。
同じ高校で、運動会か文化祭の準備をしていたとき、彼の特徴のある声がコピーできる
ようになったのだ。
そして、いかにも彼が喋りそうなことを、そっくりの声で別人が喋るものだから、かなり
受けた。気分が良かった。


さすがに本人の前ではほとんどやらなかったが、今思うとかなり不愉快だったのだろう。
やろうと思えば、彼のモノマネができるのだが、絶交されてからはほとんどやってない。
ごめんな、Mっさん。


次にレパートリーが増えたのは、マンガの編集をしていたときだった。
現在、とあるマンガ誌の編集長をされているKさんという方である。
新人の私をゴリゴリ鍛えてくださる、かなり厳しい先輩であったが、私は尊敬していた。


Kさんのモノマネも、ある日突然できるようになった。
披露したら、編集部の人にバカ受けだった。
私は、この芸で校了時のピリピリした雰囲気を乗り切っていたと言えよう。


いつだったか、Kさんが出張していたとき、私がリクエストされてKさんのモノマネを
したことがある。
すると、隣の編集部からKさんの同期がやってきて
「‥‥? Kってアメリカ行ってんじゃなかったっけ?」
と言ったことがあった。
私は心の中でガッツポーズをとったものだ。
ていうか、モノマネじゃなくて編集の技能を磨けよ、という話であるが‥‥


三人目は、業界新聞の記者見習いをしていたときの社長だ。
全員で15人ぐらいしかいない会社だったので、社長の独特の電話の受け答えは、全員が
知っていた。これもモノマネしたら受けた。


モノマネというのは、一種の批評だろう。
本人が認めたくない部分を誇張して演じていることが多い。
そして、本人がいないところで、本人のことを笑うのだから、卑怯な芸なのかもしれない。


私自身は、誰からもモノマネされることはなかった。
(もしかしたら、私のいないところでさんざんされていたのかもしれないけど)
そういう無個性な人間が、他人のモノマネで笑いをとって人間関係をつないでいたという
のは、かなり皮肉な話だなぁ。