幾代餅(いくよもち)

ふと寝る前に聴いたら面白かった。


この落語は、真面目な搗米屋(つきこめや=精米する店)の奉公人が、
吉原の幾代太夫(いくよたゆう)の錦絵を見て一目ぼれし、一年間働い
て貯めたお金で吉原に行く、という物語である。


太夫というのは、会ってもらえるかどうかも分からないし、向こうが気に
入らなければ断られるという立場にある。
奉公人は醤油屋の若旦那と偽り登楼し、一夜を供にする。


そして翌朝、奉公人が正直に、自分は嘘をついていたと話すと、幾代太
夫は感動して、年期が明けたらあなたのところに嫁に行く、と約束する。


次の年の三月、搗米屋の前に本当に幾代太夫が現れ、奉公人と夫婦にな
り、彼らは独立して餅屋を出す。
この餅屋の女房が美しいというので評判になり店は繁盛、子供も三人で
きて幸せに暮らしましたとさ、という落ち。


解説によると、実際に宝永元年(1704年)下級の遊女が身請けされて餅屋
を開き繁盛した、という実話をふくらませたものだそうで、江戸の人もこ
ういう夢みたいな噺が好きだったとみえる。


現代に置き換えると、アイドルの写真を見て一目ぼれした青年が、がん
ばってお金を稼いでプロポーズする、というようなもので、普通はあり
えない話だ。


ただ、芸人や実業家がアイドルや女優を妻にすることがたまにあるので、
この落語も現代に通用するのかもしれない。