谷啓さん追悼

谷啓が亡くなった。
小林信彦の「笑学百科」(新潮文庫 たぶん絶版)から引用する。

 芸人というものは、舞台、映画、テレビで観ているうちが花で、、つき合うものじゃ
ない。すぐれた才能の持ち主ほど、人間的にはアクが強く、かなわない。ぼくの経験で
は、はっきり、そう、いえる。

 例外的な存在もある。谷啓は才能があって、人間が善いのだ。常識人でもある。谷啓
の悪口をいう人に、僕は会ったことがない。


(中略)


 谷啓のボケ役は年期の入ったものである。往年のアボットコステロという喜劇コン
ビのボケ役ルウ・コステロをイメージにおいたボケだから、きわめてバタくさい。だい
たい、芸名からしダニー・ケイにヒントを得ているのだから、〈昭和ひとけたアメリ
カ映画少年〉として筋が一貫している。


 ぼくは、一度だけ、谷啓がギャグを作る現場に居合わせたことがあるが、音楽の譜面
にギャグを書き入れてゆくので、びっくりした。


 考えてみれば、音楽ギャグを演じるのだから、まず譜面を準備するのは当然なのだが
ぼくは、谷啓が、かつて日本で一、二をあらそうトロンボーン奏者だった事実をうっか
り忘れて、喜劇役者、またはギャグ作家としての谷啓しか頭になかったのである。


この後、自宅が火事で全焼したとき「自分が少しも動揺していないことを示す
ために」(?)焼け跡でマージャンをするエピソードが語られている。


これも小林信彦がエッセイで書いていたと思うが、谷啓は「うしろで何かすごく
面白いことをやっている人」だった。


クレイジーキャッツには植木等がいるので、注目は彼に集まる。
谷啓は目立ちたがりであると同時に恥ずかしがりでもあるので、植木等にスポッ
トライトが当たっているのを幸い、端っこの方で分かる人にだけ分かる笑いを
繰り出していた、という。


私は谷啓の全盛期にはものごころがついていなかったので、テレビや映画での
脇役として知ったのだが、タモリと共演した番組を見たときに、この人は天才だ
な、と直観した。


合掌(ガチョーン)。