星新一 1001話をつくった人

星新一 一〇〇一話をつくった人

星新一 一〇〇一話をつくった人

3年間寝かせておいたのだが、なぜだか読まなければならないような気が
して、半月ぐらいかかって読み終えた。
遺族の協力もあったのだろうが、本当によく調べたなぁ、と感心した。


本を読む習慣がある人なら、誰でも一度は星新一の世界を覗くだろう。
おそらく星新一の作品を読んだことのある日本人は何百万人といる。
だが、1001話すべてを読んだ人はほとんどいないだろう。


あまりに有名な人は、その全貌があまりはっきりしない。
存在が当たり前になってしまうと、空気のように見えなくなってしまう。
アラフォーの世代は、まさに星新一の作品を空気のように味わっていた
はずだ。


私がいまでも憶えている作品は、政府が性的な表現を禁止したために、
性的なものを見ても全く興奮しない子供たちが出現し、これでは子孫が
増えないと慌てて解禁した、というやつだ。


あまりにも「いい子」ばかりになると、こうなりませんか、と星新一
冷笑しているようだ。
これは現在の性的表現の取り締まりを予告しているようで鋭い。


ちなみに星新一手塚治虫とも親しく、こんなことを言っていたそうだ。

手塚もまた、新一の話に魅せられたひとりで、新一と語りあったことは
手塚に大きな影響と刺激を与えていく。「鉄腕アトム」のアニメ用の原作
を考えてほしいと虫プロの担当者がやってきたときなど、新一の第一声に
みな驚いて、のけぞった。
「アトムとウランちゃんの近親相姦ビデオを作ったらどうかな。合わせて
二十万馬力だ」

単行本p310-311
……そりゃ、同人アニメの発想だろう。


晩年の星新一は、1001話のショートショートを改稿して燃え尽きた。
理系だったので、美しい公式を作っていくような気持ちだったのではない
だろうか。


四半世紀ぶりに、本棚から星新一の文庫本を取り出してみよう。